情報科学研究科賞を受賞して

情報ネットワーク学専攻 | 井ノ口 真樹

 この度は、情報科学研究科賞という名誉ある賞をいただき、大変光栄に思います。大阪大学基礎工学部情報科学科の4年時にモバイルコンピューティング講座(東野研究室)に配属されて以来、日々熱心にご指導下さいました東野輝夫教授、山口弘純准教授をはじめとする研究室の先生方と、多数の有益な御助言を下さいました東野研究室の皆様に深く感謝しております。

 私は、学部4年時から地震などの大規模災害における救助支援のための、災害現場地形認識に関する研究を行ってまいりました。災害現場における医療・救助活動では、限られた人員と医療資源で効率的に救助活動を行う必要があります。それを受けて東野研究室では、傷病者の生体情報をリアルタイムにセンシングするとともに、それらを集約し管理する「電子トリアージシステム」の研究開発を進めています。そのようなシステムを活用して救助活動を行うためには、災害現場の広い範囲に点在する傷病者の位置情報を管理し、搬送経路を確保する必要があります。しかし、地震などの災害では倒壊した建造物が通路を閉塞するなど、現場の通行可能なエリアが制限されてしまうことが多々あります。そのことから、私の研究では救助活動時の救助隊員の移動に伴いリアルタイムで現場の地図を生成する手法を考案しました。この手法では、救助隊員が装備する無線通信端末の通信状況と、レーザレンジスキャナと呼ばれる周囲の物体までの距離とその形状を測定するセンサを活用し、障害物を推定します。複数の救助隊員間で通信が成功したか失敗したかの情報を用いると数十メートル程度の距離について障害物の有無を粗く推定できます。一方、レーザレンジスキャナを用いると十メートル程度の範囲内にある障害物について正確に測定することができます。これらの特性の違うデバイスを組み合わせることで、短時間で高精度な地図生成を実現します。このとき、現場の地形や救助人員の数、レーザレンジスキャナの個数などは災害現場ごとに異なり、場合によってはレーザレンジスキャナまたは通信による推定が満足に行えないことがあります。私の研究では、そのような場合にも地図生成を可能とするため、それぞれのデバイスの推定結果を重みづけし、現場から得られる測定データに合わせてより信頼を置くべき情報源から得られた推定結果の重みを大きくする手法を提案しました。

 日本などの災害の多い地域では、救助活動をいかに効率的に行うかがが極めて重要な問題となります。それに対し、モバイルコンピューティングの観点から救助活動を支援する今回の研究は非常に大きな価値のあるものだと思います。また、そのような研究に携わらせて頂いたことをうれしく思います。

 3年間の研究を通じて、多くの貴重な経験をさせていただきました。特に、日々のミーティングでは先生や先輩方と研究について様々な議論をさせていただきました。それを通じて問題を発見し、その解決方法を考察する能力を培うことができました。また、国内、国外それぞれで発表する機会を頂きました。限られた時間で自身の研究を伝えることの難しさを感じることも多くありましたが、他の研究機関の方との意見交換は非常に有意義なものでした。まだまだ力不足を痛感することはよくありますが、研究を通して身に着けた能力は、卒業後も大いに役立つと思います。

 最後になりましたが、私の大阪大学での研究生活は先生方をはじめとする研究室の皆様のご支援に支えられたものであり、今回、私がこのような賞をいただくことができたのは、皆様のおかげだと思います。改めて、東野研究室の皆様に厚くお礼申し上げます。

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©Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Japan