この度、第6回嵩賞を受けることとなりまして、大変光栄に思います。ご推薦頂きました西尾章治郎教授、賞の創設や選考に関わられた皆様、普段からのご指導をいただいております薦田憲久教授に心よりお礼申し上げます。嵩賞をいただいた研究テーマは、大阪大学に赴任する前に日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所にて行なっていたものですが、私が受賞できましたことは、出身研究室である西尾研究室の皆様のご指導によるものが大きいと感じておりまして、とても感謝しています。受賞に際して、僭越ながら受賞に至るまでの経験を、学生時代からさかのぼって話させていただきます。
私が西尾研究室に所属していた頃は、携帯電話におけるWeb閲覧に関する研究テーマに関して、西尾章治郎教授、原隆浩准教授にご指導をいただいておりました。当時は、携帯電話によるインターネットアクセスの黎明期とも言える頃で、色々な新しいアイディアで分野を開拓できる素晴らしい時代でした。その中で、私は複数の携帯端末ユーザによる協調的なWebブラウジング手法やWebページにおける画像の「役割」を判定する手法といった研究に携わっておりました。当時の原准教授による私への指導方針は、「とにかくトップ国際会議を狙え」というものだったのですが、黎明期であった西尾研究室のWeb研究チームには、そのような会議に通すためのノウハウは無く、ある程度通せるようになるまでには相当な地獄(1~2年くらいリジェクトの連続)を見た記憶があります。トップ会議に採録されている似た論文の書き方を真似たり、レビュー結果から分野ごとの査読者像を分析したりなど、全く効率的では無い手探りの連続でした。そういったノウハウのある海外研究機関にインターン等に行った方が効率的かと思いますが、あのおかげで精神的タフさは身につきました。
2006年に大阪大学を卒業した後は、日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所(CS研)に就職をいたしました。CS研では、センサデータ処理・マイニングに関する研究チームに配属され、楽しく研究活動に勤しんでおりました。(宣伝ではないですが、最高の研究環境が揃っている研究所なので、研究職を志望している学生さんは、是非とも進路の候補の1つとして考えてみて下さい!)研究所での私の主なミッションは、センサデータを用いて実世界を解釈し、実世界ベースのアプリケーションに役立てようというものでして、今回の嵩賞の受賞テーマとなったものです。特に、私は環境や身体に装着したセンサ(加速度センサ、マイク、カメラなど)を用いて、人がどのような行動を行なっているかを認識する、行動認識という研究を行なっていました。このセンサに関する分野も、Emergingなトピックでありまして、色々な新しいアイディアでそれなりにこの分野を開拓できたのではないかと思っています。
ページの都合上、私が携わった全てのテーマを紹介することはできませんので、テーマ名をざっとご紹介したあと、1つのテーマについて話させていただきたいと思います。私が携わった主なテーマは、「日常物にセンサを貼り付けると日常物が自動的に実世界現象に関するブログを書いてくれるシステム」、「ユーザが行なっている実世界行動に関係するWebドキュメントを自動的に検索する手法」、「人の身体的特徴の差異を考慮した加速度センサによる行動認識」、「手に装着した磁気センサによる利用電化製品の認識」、「手首に装着したマルチモーダルセンサデバイスによる行動認識」などがあり、学生時代の地獄のご指導のおかげで、いずれもトップ国際会議やメジャー洋雑誌に通すことができました。今回は、その中でも最後に挙げたテーマに関して紹介します。
図1:手首装着型センサデバイス
図2:TV取材の様子
そもそも行動認識とは、人の身体部位の特徴的な動きや、日常行動の際に使う日常物をセンシングすることを基本としています。このとき、人が使っている日常物をセンシングするためには、日常物ごとにセンサを設置する必要がありますが、設置のコストが大きくなります。そこで、この研究では環境内の様々な日常物にセンサを設置するのではなく、身体の一箇所にのみリッチなセンサデバイスを装着することで、日常物の利用に関わる行動を認識するというアプローチを取っています。図1がそのデバイスのプロトタイプです。加速度センサで手の動きを、マイクで行動の際に起こる音を、手のひらの方向を撮影するカメラで手で使っている物の色の情報を捉えます。そして、それらの情報を組み合わせて、時系列データを扱えるモデルを使って行動を学習・認識します。見た目がそれなりに面白い話なので、国内外のニュースやテレビ番組にも多数取り上げられまして、とてもよい経験ができました。
最後になりましたが、嵩賞をいただいたという栄誉を糧に、今後は2012年4月より勤務をしている情報科学研究科の発展に貢献できるように努めて行きたいと思っています。ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願いします。