嵩賞を受賞して

情報ネットワーク学専攻 | 荒川 伸一

 このたびは第6回嵩賞を授与して頂き、大変光栄に存じます。日頃から熱心にご指導していただいた村田正幸教授をはじめ、先進ネットワークアーキテクチャ講座の関係者の皆様に心より感謝を申し上げます。また、賞の創設や選考に関わられた皆様に深くお礼申し上げます。このような場をいただきましたので、私の嵩賞受賞の研究内容とその経験を書かせていただきます。

 私はこれまで、情報ネットワーク分野の研究、特に光通信技術を用いた情報ネットワークの設計・高速化手法に関する研究に従事してきました。飛び級制度により大学院に進学し、光通信技術を用いた情報ネットワークの研究を始めたのは1998年、博士後期課程に進学する前後は所謂ITバブル全盛となる時期でした。インターネットのユーザー数やトラヒック量が爆発的に増加し、その収容のために光通信技術と情報ネットワークの融合について方式が広く検討されていました。光通信技術は光伝送技術としての歴史があり、また、パケット交換原理に基づく情報ネットワークの制御技術にも歴史があり、これらの技術をどう融合していくか、という点が当時の最大の関心事だったと思います。私は、村田先生の指導の下、光通信分野の歴史の中で培われた高信頼化技術と情報ネットワークの歴史の中で培われた高信頼化技術の機能重複に着目し、IP over WDMネットワークにおける機能分担をどのように図れば良いかの研究に取り組んでいました。今振り返ると、光通信技術と情報ネットワークの融合にあたって理想的なネットワーク像を考える内容であり、当時も(今も)非常に興味を持って取り組むことができ、博士後期課程への進学の決め手になったと考えています。

IP over WDMネットワーク:WDMネットワークでは、光信号断(障害発生)時に迂回経路に切り替える方式が検討されている。一方、IPネットワークにおいても迂回経路探索技術が検討されている。

 その後、経済活動としてのITバブルは崩壊しましたが、光伝送の製品の引き合いは(特に北米で)強く、トラヒック量の伸びは依然として継続しています。一方、情報ネットワーク分野では、アプリケーション技術の成熟化も相まって、量的な変化のみならず通信の質的変化への対応が課題となりつつあります。そこで、通信機器の故障などの内的、また通信量の変動などの外的な環境変化にも迅速に適応することを目的として、生物システム、特に生体ゆらぎを用いた光ネットワーク制御手法を考案し、通信量の変動などのネットワーク環境の変化に対する堅牢性の確保と制御情報量の削減に成功しました。ただし、ここでの成功はあくまで計算機シミュレーションによる机上評価によるものです。最近では、共同研究相手の日本電信電話株式会社 ネットワークサービスシステム研究所と連携して、光ネットワーク制御手法の実装、および、実証実験に取り組んでいます。実証実験では、シミュレーションでは考慮していなかった実機への設定時間など、様々な課題が見つかり、その実装対応に苦労しました。また、実機で動かした結果、新たに取り組まなければならない課題が見つかりました。社会に受け入れられるよう更に研究を進めていく必要があり、嵩賞の名を汚さぬよう今後も精進していく所存です。

 学生時代および博士号取得から今まで、様々な社会環境の変化や技術進歩・変化がありました。これらの経験を通して言えることは、情報ネットワークの分野に閉じて研究を進めるのではなく、他の研究分野や社会情勢にも視野を広げ、その変化やトレンドを見極める能力が必要であると改めて強く感じています。

 最後になりましたが、大阪大学大学院情報科学研究科という素晴らしい環境で研究に取り組めることを感謝しております。また、村田正幸先生、および、共に光通信技術を用いた情報ネットワーク研究に取り組んだ情報科学研究科 大下裕一先生、小泉佑揮先生、学生の皆様に深くお礼申し上げます。

実証実験において開発した制御可視化ツール

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©Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Japan