若手教員海外派遣制度による
ヨーロッパ研究拠点巡り

バイオ情報工学専攻 | 飯塚 博幸

 情報科学研究科が支援している若手教員海外派遣を利用して、8月27日から9月28日の1カ月の間に、イギリスのサセックス大学とプリマス大学、スペインのバスク大学、ドイツのビーレフェルト大学の4カ所を巡り、各施設の研究者と交流を行うとともに、最先端の研究体制、設備、教育について視察を行ってきました。私の都合により全体の期間が1ヵ月という制約があり、この1ヵ月間を最も有効に使う方法を考え、できる限り多くの拠点を回り、できる限り多くの研究者と議論を行い、できる限り多くの施設を視察することと致しました。この貴重な経験について書かせていただこうと思います。

 最初の滞在先、イギリスのサセックス大学には意識科学を推進しているSackler CentreのAnil Seth教授のもとを訪れました。彼の率いるグループは、従来、科学の対象として排除されてきた意識に対して、科学的に真向から挑む非常に意欲的な研究グループでした。グループは、非線形科学者、生物学者、生理学者、認知神経科学者、脳科学者が一堂に会し、実験家と理論家が共存しおり、議論の絶えない刺激的なものでした。次の滞在先であるスペインのバスク大学では、Ezequeil Di Paolo教授が人と人の相互作用を理解するための哲学的アプローチを行う研究グループを率いています。主要なアプローチは哲学ではあるものの、建物の設備と人は近辺に生物学者、計算モデル学者がおり、こちらも学際的研究を行う場所となっていました。プリマス大学では、幼児を模したヒューマノイドロボットを用いることで発達過程を人工的に再現することで、構成的に理解を試みる構成的発達学のアプローチがAngelo Cangelosi教授とDavide Marocco講師の率いるグループにおいて進められており、ビーレフェルト大学は認知ロボット研究の一つの研究拠点であり、工学と心理学が融合されたグループでした。

 それぞれの滞在先が目指していたのが学際的な研究拠点の形成でした。近年、学問の学際性を求められるようになり多くの試みが行われていますが、訪れたそれぞれの拠点は成功している数少ない事例であると感じています。成功の秘訣は当然、率いる人に依存するところはあると思いますが、活発な人と人の交流にあるように思えます。いつもセミナー後には、異分野の学生や教授たちがそれぞれの立場関係なく、キャンパス内の飲み屋で飲みながら議論を続ける。これはどこのグループも共通でした。私自身、その場に参加し、生物学者の方より「君の研究に関係のありそうな生物がいる」と教えていただくこともありました。キャンパスや施設内であるために多くの人が気軽に参加することができ議論を楽しむ。この継続的交流が通常困難である異分野間交流を成功させているようでした。

 また、当然のことながら共通言語が英語であるがゆえの各国間の横断的な解放感が圧倒的でした。イギリス、スペイン、ドイツと3ヵ国を巡る滞在でしたが、各グループともに教授、研究員ともにその国出身である人の方が少ないのではないかと思うぐらい多様な人で溢れています。日本では地理的、文化的問題から安易に多様性を持ち込むのがいいかどうかの議論はあるものの、その方が面白いはず。私は幸運にも多くの国を巡る機会が与えられ、様々な人に巡り合うことができました。今回の研究拠点めぐりは、研究や私生活での考え方の違いに触れる喜びに溢れていました。自分自身もできる限り多様性を保った刺激の溢れる研究環境を目指したいと強く思います。

 今回の滞在では、複数の研究拠点において共同研究を始めるきっかけを作ることができ、また、複数の拠点を回ることによってそれぞれの文化や制度を実感し、視野の広がりを得ることができました。このような貴重な体験を与えてくださった大阪大学情報科学研究科と快く滞在を受け入れてくれた各国の研究グループの方々に感謝致します。

iCub(プリマス)

ビーレフェルト

セミナー風景(バスク)

新規配属コース説明会(プリマス)


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