JST CREST 研究領域「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論
及び基盤技術の創出と融合展開」および研究課題
「ネットワーク構造をもつ大規模システムのディペンダブル制御」紹介

情報数理学専攻 | 藤崎 泰正

 現在、私たちが直面する重要な社会的課題の一つに、「社会インフラとして今後どのようなエネルギーシステムを構築していくべきか」という議論があります。再生可能エネルギーを含む分散型エネルギーシステムと従来の電力系統システムとの調和、多様なエネルギー源の最大限の活用、災害時も含めたエネルギーシステムの安定性、社会への導入コストなどに関して、科学的根拠に裏付けられた検討が今求められています。

 平成24年度に新たに設定されたJST CREST研究領域「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開(略称:EMS)」(研究総括:藤田政之東京工業大学教授)は、この社会的課題の解決を目指すものであり、分散協調型エネルギー管理システムの構築という出口を見据えて、システム、制御、情報、通信、エネルギー、社会科学など様々な研究分野をつないだ連携や融合に取り組もうとしています。そのために、EMS研究領域では、これまでのCRESTになかった仕掛けが導入されました。具体的には、平成24年度には、EMS研究領域でカバーすべき各分野の基礎理論や要素技術を研究する小規模チーム(研究期間:2年半)の募集がありました。そして、この2年半の間に、私たちが目指すべきエネルギーシステムの姿を研究領域外の研究コミュニティを含めてオープンに議論し、異分野間の相互理解を徹底的に深める取り組みを経た上で、これら研究チームをコアとした異分野融合チーム(最強チーム)の再編を行い、引き続く5年間の研究を実施する予定になっています。

 このような方針を掲げるEMS研究領域に対し、平成24年度の公募では、総計125件というCRESTでは最多の応募があり、最終的に16件の研究提案が採択されました。筆者が情報システム工学専攻の土屋達弘教授とともに提案し、採択された研究課題「ネットワーク構造をもつ大規模システムのディペンダブル制御」(研究代表者:藤崎泰正)も、その中の一つです。

 筆者らは、システム制御理論と情報システム技術の高度な融合が、再生可能エネルギーの大量導入にも対処可能な安定性の高い電力システムの実現に必須であるとの考えから、ディペンダブル制御の基礎理論構築を提案しました(図1参照)。実際、電力システムは電力網と情報網から構成される多層的な大規模ネットワークであるため、局所的な変動や故障が各層間の相互干渉により伝播し、大規模な停電を引き起こす可能性があります。研究課題では、この種の構造的な変動の伝播をモデル化して解析し、変動や故障に能動的に対処するディペンダブル制御を実現するための方法論を構築することを目指しています。

 採択されてからのこれまでの半年間は、制御容易なネットワーク構造の特徴付けや配電ネットワークにおける監視点選択などを題材に、ディペンダブル制御理論の姿をメンバー全員で議論して来ました。今後も引き続き、再生可能エネルギーの導入が電力システムに与え得る変動や故障を吸収可能な方法論の構築に向けて、次世代電力システムにおけるディペンダビリティの実現を具体化すべく研究して行きます。

図1:「ネットワーク構造をもつ大規模システムのディペンダブル制御」研究構想

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©Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Japan