社会システム・サービスの
最適化のためのIT 統合システムの構築

情報ネットワーク学専攻 | 東野 輝夫

 近年、社会システムやサービスにおける様々な課題解決に情報技術(IT)の果たす役割が年々増大している。人・モノなど実世界の事象が多様なセンサにより大量に収集・活用できる状況になっており、それらのデータを分析評価した結果を実世界の活動に適切にフィードバックすることで新たな価値を創成する技術に期待が集まっている。また、第4期科学技術基本計画(平成23年8月19日閣議決定)においても、高効率化、省エネルギー、安全・安心の確保をはじめとした様々な課題達成に資するIT基盤技術の構築が求められている。

 平成24年度文部科学省の「社会システム・サービスの最適化のためのIT統合システム構築」の研究開発の公募に際し、国立情報学研究所の坂内正夫所長を研究代表者として、北海道大学、大阪大学、九州大学の4つの研究機関で応募し、2012年10月より4年半の予定で本研究開発を受託している。本研究に先立ち、これら4機関で平成23年度に文部科学省からIT統合基盤技術に関するフィージビリティスタディを受託し、国内外の研究動向の把握と個別技術のプロトタイプ的な実証評価を行った。本研究はこの調査研究を踏まえたものであり、代表機関の国立情報学研究所は「データ管理基盤」の研究を実施し、参画機関で共有して使う実世界データの効率的な収集管理を目指している。北海道大学は「スマート・フェデレーション統合環境」に取り組み、都市の除排雪の高度化に適用することを目指している。大阪大学は「データ分析基盤」の構築を目指し、都市の環境センシングやスマート化への応用を目指している。九州大学は「パーベイシブ・センシング 機構」により大学キャンパスを例に先進的なセンシング技術の適応を目指している。

図1:サイバーフィジカルシステム技術の研究開発

 これらの研究を実施するため、大阪大学では情報科学研究科、サイバーメディアセンタ、工学研究科に所属する4つの研究室が研究プロジェクトに参画し、環境・エネルギー問題や医療・健康問題、災害等に強い安全・安心な社会の構築などの課題に対応するためのIT基盤技術の開発を行なっている。近年、実世界から多様なセンサが大量のデータを生み出し、それを収集・解析し状況判断した結果を生活や社会活動により適切にフィードバックすることで、社会システムの効率化や高機能化の達成を目指すサイバーフィジカルシステム(Cyber Physical System: CPS)が注目されている。この概念は、従来は数学的統合モデルに基づき最適制御を行うシステムとして研究が進められてきたものであるが、現実の課題は多様のパラメータが関連し、標準的な形でのモデリングが困難な場合が多い。このため、制御ループ中に人を組み込み、人による分析・意思決定に基づくより高度なシステムを目指すHCPS(Human Cyber Physical System: HCPS)技術の開発が重要であると認識されてきている。本研究は、このようなより広い概念のCPS構築とそのための共通基盤技術を開発することで、CPS技術の適用領域と有効性を拡大し、様々な社会サービスの効率化や高度化に寄与する技術を創出することを目指している。

 このうち、大阪大学チームでは図1のように、
(i)社会全体の最適化を考慮した都市モデルの構築(人や車の移動モデル、社会行動モデル)
(ii)大規模データに対する情報可視化技術と分析・推論・シミュレーション技術
(iii)プローブカー情報など大規模時系列データのリアルタイム・マイニング(解析)手法
(iv)膨大な位置依存データの(分散)管理・検索手法、データ圧縮、プライバシー保護技術
(v)多数パラメータのモデル推定、行動モデル構築、社会最適性の評価指標構築
(vi)クラウドソーシングなど新しい形態による次世代ITS情報の収集、伝搬、マイニング技術の開発
などを行なっている。このような技術開発を進めることで、図2のような大規模センシングシステムを用いたリアルタイムフィードバック技術を開発していきたいと考えている。

図2:リアルタイムフィードバック技術

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©Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Japan