コンピュータサイエンス専攻
並列処理工学講座の紹介

コンピュータサイエンス専攻 | 伊野 文彦、置田 真生

 Pentium 4プロセッサの動作周波数が3.4GHzに達して以降、この10年にわたりCPUの動作周波数は頭打ちです。この間、CPUはコア数を増やすことにより性能を高めてきました。この傾向はグラフィクスハードウェアGPU(Graphics Processing Unit)において顕著であり、最新のK20Xアーキテクチャは2688個ものコアを内蔵しています。並列処理工学講座では、このような多数の演算器を持つ高性能計算システムにおいて、ソフトウェアの性能を最大化するための並列分散アルゴリズムなどの基礎理論からそのプログラム開発を含めた応用までの幅広い研究を推進しています。

GPUを用いた科学技術計算の加速

 並列処理の醍醐味は、数千台もの演算器を同時に使い、処理時間を短縮することです。これまで誰もが試みようとさえしなかったことを可能とし、新しい価値観や方法論を創出できます。

 例えば、医療における診断では、X線CTを用いて患者の輪切り画像を取得します(図1)。そのためには、数十分ほど時間を要する画像処理が必要で、手術中のCT像は取得できませんでした。しかし、本講座のGPU技術はこの画像処理を数秒程度に短縮でき、(株)島津製作所より製品化がなされています。この技術を使えば、癌細胞を計画通りに摘出できているか、などの検証を術中に遂行できます。

図1:研究の概要

高性能計算の分野では、従来は大掛かりなスーパーコンピュータが主役でしたが、本講座ではGPUに着目しています。遊休状態にあるGPUをインターネットから探し出し、世の中に役立つ科学技術計算の高速化を試みています。

スパコン「京」を用いた大規模な生体機能シミュレーション

 生体機能シミュレーションとは、実際の生体を取り扱わずにコンピュータだけを用いて、細胞の活動や投薬時の生体反応などを予測する技術です。正確な予測のためには、数十万~数百万におよぶ細胞や組織のメカニズムをコンピュータ内で再現する必要があり、膨大な処理時間が要求されます。

 当研究室では、PhysioDesignerプロジェクト(図2)の一貫として、様々な生体機能を汎用的に予測できるシミュレータFlintを開発しています。Flintは高速化のために並列実行の機能を備えており、メニーコアCPU、PCクラスタ、GPUやクラウドなどの並列環境で動作します。

 現在、大規模なシミュレーションの実現に向けてスーパーコンピュータ「京」(図3)へのFlintの移植に取り組んでいます。京は80,000個以上のCPUからなる巨大な並列コンピュータであり、世界最高クラスの計算性能を持ちます。ただし、この性能を最大限引き出すためには、問題をうまく分割し、多数のCPUを無駄なく使い切ることが重要です。

図2:PhysioDesignerプロジェクト


図2:PhysioDesignerプロジェクト

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©Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Japan