情報科学研究科では、平成24年度文部科学省博士課程教育リーディングプログラム【複合領域型(情報)】に採択されました。博士課程教育リーディングプログラムは、優秀な学生を俯瞰力と独創力を備え、広く産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーへ導くため、国内外の第一級の教員・学生を結集し、産・学・官の参画を得つつ、専門分野の枠を超えて博士課程前期・後期を一貫した世界に通用する質の保証された学位プログラムを構築・展開する大学院教育プログラムです。博士課程教育リーディングプログラムは、平成23年度に事業が開始されましたが、複合領域型(情報)は平成24年度が初年度の応募年度となっており、情報科学研究科では、本学、生命機能研究科、基礎工学研究科の協力を得て、応募・採択の運びとなりました。
複合領域型では、人類社会が直面する課題の解決に向けてイノベーションを牽引するリーダーを養成する、複数の領域を横断した学位プログラムの構築が望まれています。特に、情報分野では、平成23年度第1回博士課程教育リーディングプログラム委員会での複合領域(情報)のテーマ設定でも議論がなされたように、「国や地域、時間の垣根を超えてネットワークでつながる豊かで便利な社会を目指し、脳・認知科学やシミュレーション科学の推進などにより、パラダイムシフトを創起し、生活、文化、社会の発展や新産業・サービスの創造につなげる」基盤となる技術革新とそれを成し遂げるリーダー人材が必要とされてきています。このような状況を踏まえ、情報科学研究科ではグローバルCOEプログラムを推進しながら、今後あるべき情報科学研究科の教育プログラムについて議論を重ねてきました。
情報技術は、ハードウェア、ソフトウェア両面において類まれな発展を遂げており、その結果、人間同士が情報ネットワークを介して密接につながり合い、複雑なダイナミクスを持つ巨大なネットワークとなっています。絶えず変化する社会環境を支えるためには、人間や環境に負担をかけ、発展不能な複雑なシステムを生み出しがちな従来型の技術革新ではなく、ヒューマンウェアという新たな視点でイノベーションの方向を転換し、柔軟性、頑強性、持続発展性を持ったシステムを構築することのできる人材が求められています。
ヒューマンウェアは、生命システムなどが持つ柔軟性、頑強性、持続発展性を有し、人間・環境に調和した情報社会を構築するための「情報ダイナミクス」を扱う技術です。ヒューマンウェアに関わる技術を習得するためには、情報を受け取り、理解し、生み出す「認知ダイナミクス」と、人や環境に柔軟に適応する機能を与える「生体ダイナミクス」を理解する必要があります。大阪大学の情報科学研究科、生命機能研究科、基礎工学研究科の3研究科の連携の下で、情報、生命、認知・脳科学の3領域のダイナミクスを共通的に捉え、相互にフィードバックすることによって新たなイノベーションを起こすことのできる「ネットワーキング型」の博士人材を育成することを目的とします。ここで、ネットワーキング型博士人材とは、自らの専門性を深めつつ、他の領域の専門知識を獲得して自身の領域にフィードバックする双方向性を備えた人材を言います。以上の目的を達成するため、本プログラムでは、3研究科の密接な連携による5年一貫の博士コースとして教育を行い、ネットワーキング型博士を生み出すカリキュラムを構成しています。また、本プログラムの最大の特色は、分野の異なる学生同士による徹底した議論と融合研究(斎同熟議)により、ヒューマンウェアという新たな視点をもってイノベーションの方向性を転換できるイノベーション牽引リーダーを養成する点にあります。このプログラムを修了するためには2度の資格審査(Preliminary Qualifying Examination(Pre-QE)、Research Qualifying Examination(R-QE))によって、融合研究の企画提案力と遂行力を評価します。さらに、自ら課題を設定し、グループを牽引して課題を解決できるリーダーに必要な資質をGlobal Principal Investigator(GPI)スキル審査により質保証し、輩出します。このプログラムを最終的に修了し、学位を受ける者は、研究科の学位に「ヒューマンウェアイノベーション博士課程プログラムを修了した」ことが付記された特別な学位を授与されることとなります。
本プログラムは、国内外の産・学・官の強い連携のもとで推進します。海外のさまざまな研究拠点や海外連携研究機関を通じて優れた留学生を受け入れることにより、融合領域研究において日常的に英語ディスカッションを行うことのできるグローバルな教育研究環境を整えます。学内に設置された世界トップクラスの研究機関である情報通信研究機構・脳情報通信研究センター(CiNet)、理化学研究所・生命システム研究センター(QBiC)、さらには民間企業6社の本プログラムへの強力な参画を得て、高度博士人材を連携して育成します。また、海外研究機関へのインターンシップ(海外武者修行)、現地の学生や若手研究者との共同企画によるサマーキャンプ、ワークショップ、研究キャラバンなどを実施し、国際的に活躍するリーダー人材となるためのデザイン力、コミュニケーション力、マネージメント力を涵養します。さらに、本プログラムに選抜され、認定された学生には学習、研究に専念できる環境を提供することを目的として、返還の必要がない奨励金の支給を行います。
図:本プログラムの基本コンセプトと推進体制
平成24年度は、平成25年度に第一期生を迎え入れるため、カリキュラム構築、運営・教育体制の整備、国内外研究教育機関との連携強化、各種教育システムの試行、などを行いました。また、年度末には、本教育プログラムの内容・意義を広く知らしめるためのシンポジウムを開催し、350名に及ぶ多数の参加者を得ることができました。その後、3研究科の入学希望者に対して本教育プログラムの内容と選抜方法の説明会を行い、選抜試験を実施しました。予想以上の応募者があり、書類審査・面接審査を経て第一期生が決定しました。平成25年度は、いよいよ4月からこれら第一期生を迎え入れ、教育プログラムを本格的に始動します。これらのカリキュラムや教育環境のもと、情報、生命、認知・脳科学の融合領域において、産官学の多様な分野で活躍するリーダー人材が育成されていくと確信しております。
末筆ながら、本プログラムへの皆様の暖かいご協力とご支援をお願いいたします。なお、より詳しい
情報は、次のURLを参照ください。
http://www.humanware.osaka-u.ac.jp/