この度は嵩賞という大変名誉な賞を受賞する機会を頂きまして、誠にありがとうございます。本賞にご推薦賜りました尾上孝雄先生並びに、研究に際して大変お世話になりました橋本昌宜先生をはじめとする情報システム構成学講座のご関係者の皆様に、心より御礼申し上げます。今回この場を借りて、嵩賞を頂いた博士論文について紹介させていただきたいと思います。
昨今、半導体素子は微細化を続けていますが、微細化は消費電力の増加という問題を抱えており、消費電力の増加抑制のために、低電圧化技術が重要になっています。一方で、半導体の微細化や低電圧化は、ソフトエラーという現象を増加させます。ソフトエラーとは、放射線粒子が半導体素子に突入し、核反応により放出された電荷や正孔や半導体の動作に一時的な故障を発生させる現象です(図1)。特に近年では、地上の半導体素子でもソフトエラーが無視できないものとなっており、低電圧化を行う上ではソフトエラー率(SER)の正確な見積もりが必要となっています。こういった背景のもとに私の研究では、ソフトエラーを測定する上での技術的課題の解決を目指しました。
図1:放射線の半導体素子への突入と電荷正孔対の発生
まず課題となるのは、組み合わせ回路で発生する放射線起因一過性パルス(SET)というソフトエラーの測定でした。SERを見積もる上で、SETのパルス幅を測定することが重要ですが、既存の回路では荒い分解能でしか測定できない、製造ばらつきや負バイアス温度不安定性(NBTI)などのパルス幅を変動させる成分を除去できない、といった課題がありました。そこで私の研究では、高い時間分解能とパルス幅変動成分除去機構を持つSETパルス幅測定回路を提案し、正確な中性子起因SETのパルス幅分布を測定しました(図2)。また、NBTIによるパルス幅変動効果を測定し、NBTIによるパルス幅変動効果が、SERを20%過大評価することを明らかにしました。
図2:中性子起因SETのパルス幅分布
また、同時に複数の素子へ影響を及ぼすソフトエラーも、発生メカニズムが未解明であり、SERを見積もる上での課題でした。私の研究では、放射線起因一過性複数反転(MCU)の照射角度依存性に注目し、低電圧動作させたメモリ回路(SRAM)に発生する中性子起因MCUの角度依存性を測定しました。そして、半導体デバイス度依存性を測定し、中性子の衝突で発生する二次イオンの前方散乱性が、低電圧回路のMCU発生メカニズムに影響を持つことを解明しました。また、これまで測定事例のない放射線起因一過性複数パルス(SEMT)の測定回路を提案し、中性子起因SEMTの電源電圧依存性や空間的特性を明らかにしました。
そして、以上の提案と得られた実測結果をまとめ、放射線・ソフトエラーの種類・半導体素子ごとにSERを評価することで(図3)、低電圧化などの性能要求に応じてソフトエラーに対する信頼性を最適化できることを示しました。
図3:放射線・ソフトエラーの種類・半導体素子ごとのSERと電源電圧の関係
現在、私は大阪大学大学院を修了し、民間企業に勤めております。これまでの研究開発とは直接的に関わっておりませんが、研究生活を通じて培った経験を支えに、仕事に励んでおります。嵩賞の名に恥じぬ研究者・技術者となれるよう、これからも努力してまいりますので、今後ともご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。