産学連携活動について

産学連携総合企画室長 | 長谷川 亨

 大学院情報科学研究科は、サイバーメディアセンターと共同で産学連携を推進する組織としてIT連携フォーラムOACIS(Osaka Advanced Research Collaboration Forum for Information Science and Technology http://www.oacis.jp/)を平成14年に設立し、以来、シンポジウムや技術座談会の開催、企業との研究交流会の実施、産学連携シンポジウムの共催や出展など多様な産学連携活動を実施してきました。ここでは、平成26年度に実施したイベントについて紹介します。

シンポジウム

 OACISの総合的な交流の場であるシンポジウムは、昨年度までに25回開催し、今年度は第26回シンポジウムを平成26年7月4日(金)に大阪大学中之島センターで、また、第27回シンポジウムを平成25年11月29日(金)に大阪大学コンベンションセンターで開催しました。

 第26回シンポジウムでは、大学・国立研究機関と産業界のビッグデータに関する研究開発の最前線について、双方の研究者・技術者が紹介し会う機会を設け、ビッグデータにおける産学連携の可能性を探ることを「ビッグデータのインパクトを探る」を基調テーマに、下記4件の講演とパネル討論が行われました。東京大学教授 喜連川優教授に「ビッグデータのインパクトを探る」という講演題目で、ビッグデータに利用の方向性について講演いただきました。学内関係者として、大学院情報科学研究科 鬼塚真教授に「グラフマイニングの応用事例と高速化の取り組み」について講演いただきました。ビジネス化の観点で、ヤフー株式会社 システム統括本部データソリューション本部 テクニカルディレクターの角田直行氏に、「課題解決エンジンを支えるデータ処理システムと利活用事例」という講演題目で、楽天株式会社 楽天技術研究所 リードサイエンティストの平手勇宇氏に、「E-commerce企業におけるビッグデータ活用の取り組みと今後の展望」という講演題目で、講演いただきました。パネルでは、「ビッグデータの産学連携の形 ~Win-Winの関係に必要なもの」について議論いただきました。参加者は100名でした。

 続く第27回シンポジウムでは「大学と産業界におけるICT研究開発の最前線」を基調テーマに、グローバルに活躍するイノベーション人材育成に関して、産学それぞれの立場からその取組が紹介されました。まず、パナソニック株式会社 全社CTO室 ソフトウェア戦略担当 理事 梶本一夫 氏に「IoT時代の企業における人材育成」について講演頂いた後、大学院情報科学研究科 楠本真二教授に「分野・地域を越えた実践的情報教育恊働ネットワークenPiTの活動について」について講演いただきました。また、講演会終了後に、産学におけるICTに関する研究開発の最新の取り組みについて、大学側から学生による研究成果のポスター発表を行うとともに、産業界側からはブース展示によってその研究開発の紹介がなされました。学生のポスター発表は、博士前期課程(修士課程)、博士後期課程(博士課程)の他、大阪大学が取り組んでいるヒューマンウェアイノベーション博士課程プログラムの学生によって、計36件(58名)行われました。一方、産業界側からは計16社のブースが出展され、企業の研究開発に関する取り組みが紹介されました。シンポジウム全体の参加者は305名、内学生161名で、参加者対象のアンケートによると、産学それぞれの最新の研究開発状況を知ることができただけでなく、双方における今後のリクルート活動にもたいへん参考になったとの評価をいただきました。

学生のポスター発表の様子

企業ブースにおける学生への説明の様子

技術座談会

 技術座談会は、特定のテーマをとりあげ、大阪大学情報科学研究科とOACIS参加企業の連携について自由な議論をする場を提供するものです。平成20年度まで40回を超える技術座談会を開催し、産学連携を生み出すきっかけ等の役割を果たしてきました。情報科学研究科の研究内容の紹介がほぼ一巡した後、このような形式の技術座談会はしばらく休止しておりましたが、ほぼ5年が経過し、新たな技術シーズが紹介できる状況になってきたため、昨年度より再開しました。今年度は、大阪大学中之島センターおよびグランフロント大阪におきまして、下記のように、第45回から第47回まで計3回開催いたしました。

第45回技術座談会
「情報セントリックネットワークの最新動向と省電力化、
Internet of Thingsにおける群衆ソーシング、スパコンのライフサイエンス応用、
ベイジアンネットワークによる遺伝子制御ネットワーク推定、細胞の画像処理」

講師:情報ネットワーク学専攻 情報流通プラットフォーム講座:教授 長谷川 亨、助教 小泉 佑揮
バイオ情報工学専攻 ゲノム情報工学講座:松田 秀雄、准教授 竹中 要一、助教 瀬尾 茂人

 「情報セントリックネットワークの最新動向と省電力化」では、現在のホスト指向のネットワークに対して、情報(コンテンツ)の名前で通信相手を指定するInformation Centric Networking(ICN)技術の動向と、その省電力化のへの取り組みを紹介しました。「Internet of Thingsにおける群衆ソーシング」では、Internet of Thingsのインフラとして重要な役割を担うLong Time Evolution (LTE)に対し、その課題と問題解決への取り組みを紹介しました。 「スパコンのライフサイエンス応用」では、スパコンを用いた生命科学研究の動向が概説され、特に、現在スパコン京で利用されているベイジアンネットワークのアルゴリズムが、「ベイジアンネットワークによる遺伝子制御ネットワーク推定」で紹介されました。 「細胞の画像処理」ではバイオイメージ・インフォマティクスという分野が概説され、また現在行われている研究例が紹介されました。 参加者は15名(うち外部7名)でした。

第46回技術座談会
「数理シミュレーションと可視化、高速化技術」

講師:マルチメディア工学専攻 応用メディア工学講座(大阪大学サイバーメディアセンター):
教授 下條真司、准教授 伊達進、講師 木戸善之

 「可視化システムの紹介」では、スパコンによる大規模シミュレーションが可能となりその可視化の重要性が高まっている現在、大阪大学サイバーメディアセンターで今春から稼働中の大規模可視化システムとそのサービス内容について説明がありました。「VisCloud」では、遠隔可視化装置のためのSDN法を用いた経路最適化技術において、動的経路制御をタイルドディスプレイミドルウェアに組み込むことにより、パケット混雑やネットワーク障害の回避が可能となったことの報告がありました。「SDN-MPI」では、ネットワークの動的制御を可能とするSoftware-Defined Network(SDN)の機能性を分散並列処理用通信ライブラリMPIに統合することにより、MPI集合通信時の効率的なデータ配送を行うSDN-MPI法についての紹介がありました。「拡散のシミュレーション」では、食品トレイのリサイクル工程に混入した汚染物質が工程を通してどのように分散するかの分析法とそのシミュレーション法が説明されました。「流れのシミュレーション」では、流体の基礎方程式から渦の動態方程式がどのように導かれるかまたそのシミュレーション手法が示されました。「生物の群行動由来創発システム」では、バクテリアのコロニーパターンを例に創発性モデルの特性とそのシミュレーション結果の紹介がありました。参加者は20名(うち外部7名)でした。

第47回技術座談会
「ソフトウェア工学分野の最前線」

講師:情報システム工学専攻 ディペンダビリティ工学講座:教授 土屋達弘、准教授 中川博之
コンピュータサイエンス専攻 ソフトウェア工学講座:准教授 松下誠

 今回の技術座談会は、「ソフトウェア工学分野の最前線」というメインテーマのもと、ソフトウェア工学の各分野で活躍されている3名の講師により、各分野の最新動向に関する紹介がなされました。まず、「テーマ1:ソフトウェアのテストと安全性に関する研究動向」では、ソフトウェアの正しさを確認するための手法として、ランダムテストとモデル検査法、組み合わせテストに関する紹介と、安全性分析に関する分析手法が概説されました。次に、「テーマ2:要求工学の最新動向」では、要求工学の概説と、同分野の最近の研究トピックである、トレーサビリティ・進化、ゴールモデル、ソフトウェア提供方法の変化に関する紹介がありました。最後に、「テーマ3:コードクローンの分析手法とその応用」では、コードクローンの定義・研究背景を概説し、最近までの研究の流れと今後の方向性について、多くの適用事例を交えた紹介がなされました。参加者は20名(うち外部7名)でした。

 いずれの技術座談会でも、研究内容の紹介の後、懇談会を実施し、活発な討論が行われました。

第46回技術座談会の様子

特許講習会

 特許講習会は、知的財産権に関する基本的事項を理解し、大学教職員・学生による発明等の保護(特許取得)や研究開発成果の活用に役立てることを目的に、毎年開催しています。今年度は平成27年2月6日(金)2時限に、潮見坂綜合法律事務所の末吉亙先生による「イノベーションと知的財産権」という講演題目での講習会を実施しました。これはヒューマンウェアイノベーション博士課程プログラムにおける講義「イノベーション創出論」で開講されているものであり、特にイノベーション創出との関係から知的財産権に関する知見を得ることができました。講習会の受講者(教職員)は、6名でした。

知的財産に関する講義の新設

 平成25年度から、「知的財産の基礎(情報科学を中心にして)」を研究科全専攻の学生を対象にして開講しています。本科目は、知的財産センターの青江秀史教授、桝田剛 特任准教授を講師として招いて、知的財産に関する講義が主目的ですが、単なる座学にとどまらず、特許電子図書館を用いた知的財産の検索演習、特許明細の作成に関する演習、例題を使ったグループディスカッションによる特許性の判定等、実践的な講義が行われています。本年度は46名の学生が受講しています。

以上のように、大学院情報科学研究科では積極的に産学連携活動を実施しております。今後もOACISの活動を中心に産業界との交流を深めて行きたいと考えております。皆様方のご支援をよろしくお願いします。

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