当講座は、情報科学と生命科学が融合した研究領域であるバイオインフォマティクスに関する研究、特に生命科学分野の膨大な量のデータを解析し、生命システムに潜むメカニズムや規則性を見出す研究を行っています。具体的には、次世代シーケンサーから得られる塩基配列データや、生体イメージング技術により得られる画像データを、実験研究者との共同研究により解析しています。研究に利用する計算資源としては、講座所有のサーバやストレージに加えて、「京」などの世界最先端のスパコンも活用しています。
生体内における細胞遊走ダイナミクスの解明
免疫細胞である白血球は、骨髄で産生された後、全身に張り巡らされた血管を介して体内を巡回しており、生体内で感染や炎症が生じると、さらに多くの免疫細胞が骨髄腔から炎症部位に動員されます。免疫システムにおいては、様々な細胞が適切な時期に適切な場所に移動するための細胞遊走の仕組みが重要です。
当講座では、大阪大学の未来知創造プログラム「医工情報学の連携による蛍光生体イメージング技術の開発と細胞遊走ダイナミクスの統合的解明(医学系研究科免疫細胞生物学教室と工学研究科生命先端工学専攻物質生命工学コースケミカルバイオロジー研究室との共同研究)」の一環として、免疫細胞が生体血管内を遊走する様子を観察した動画の解析を行っています。免疫細胞の量や速度を抽出するため細胞の追跡アルゴリズムや、血管壁への接着・浸潤といった細胞の状態を識別する方法の開発を通して、細胞遊走のダイナミクスの解明や薬効の評価・予測に利用可能な技術の開発を進めています。
図1:グラフマイニングの分析例
「京」を使った大規模データ解析による細胞の転換メカニズムの解明
ヒトを含む哺乳類には、白色と褐色の2種類の脂肪細胞があります。前者は脂肪の形でエネルギーを貯蔵するのに対して、後者は体温の恒常性維持のため脂肪を燃やして熱を発生させます。興味深いことに、ある種の白色脂肪細胞は、寒冷刺激を受けると褐色脂肪細胞のように熱を発生するベージュ脂肪細胞に転換しますが、そのメカニズムは不明でした。当講座では、文部科学省HPCI戦略プログラムの一環として、京都大学農学研究科の河田照雄教授のグループの協力を得て4℃で飼育されたマウスのベージュ脂肪細胞中の約25,000個の遺伝子について時系列発現データを取得し、「京」を使ってネットワーク解析を行ったところ、前述の転換は免疫細胞の一種であるマクロファージが分泌するサイトカインという物質によって調節されていることを発見しました。脂肪細胞での転換メカニズムが、「京」での大規模データ解析によって初めて明らかになりました。
図2:自然言語処理による知識抽出