巻頭言

 

情報科学技術の進むべき道
-新型コロナウイルス問題に直面して-

研究科長  村田 正幸

情報科学研究科が2012年に創設されてから、もうすぐ20年を迎えます。1970年に大阪大学基礎工学部に情報科学科(創設当時は情報工学科)が創設されてからは50年が過ぎました。情報科学の研究対象は、もはや「コンピュータ」だけではなくなりました。情報科学技術の発展によって、産業社会や経済社会は劇的に変化しつつあります。また、Webやスマートフォンなどの発展によって情報科学技術は日々の生活のすみずみまで浸透し、我々のライフスタイルを変えるまでに至っています。情報科学技術はすべての学術領域と関わり合うべきものとなり、研究科の果たすべき役割も変わりつつあります。情報科学を中心とした先進的な研究を展開するだけでなく、豊かな未来社会を実現するために、また、革新的な社会イノベーションを創出するために研究科を発展させていく必要があります。そのような思いから、昨年8月に研究科長に着任以来、研究科組織を見直し、研究戦略企画室の新設など再構築を行いました。また、研究科の運営方法を変え可能な限りオープンにするようにしました。若手研究者を中心に研究力向上のために、研究に対するオープンなマインドを醸成する方策に取り組んでまいりました。これらの効果が現れるのはおそらく数年後になるでしょうが、今後も引き続き努力をしていきたいと考えています。

しかし、一方で、新型コロナウイルスの問題によって、我々情報科学の研究者の取組がまだまだ不十分であると認識させられました。今、多くの組織でテレワークが導入され、テレビ会議システムも使われていますが、コミュニケーションツールとしての機能の不十分さが問題になっています。地方創生や余暇確保のコンテキストにおいて、テレビ会議を活用したテレワークの必要性が20年前には指摘されていましたと思います。最近においても、男女共同参画や働き方改革のなかでテレワークの活用が言われてきました。しかし、現在においても定着していません。なぜでしょうか? まず、場の雰囲気を伝えられないことなど技術的な問題が解決されていません。これはまさに認知学、心理学など他分野との融合分野がじゅうぶんに進んでいない証左になります。もう一点、さらに大きな問題があります。我が国特有の問題として、対面の会議を開くこと自体が目的化されていること、それが組織の意志決定システムに組み込まれていることが挙げられます。このような問題を乗り越えてこそ、新たな社会イノベーションが産まれます。同じような問題として、情報の真正性が伝えられないSNSの問題もあります。

これらはまさに、情報科学技術だけでなく、さらに科学技術の融合だけでなく、広く社会のあり方にも目を向けるべき課題だと言えます。研究科の使命である「情報科学技術をなお一層発展させながら、多様化する現代社会の問題を克服しながら豊かな社会を実現すること」を単なる理念に終わらせることなく、着実に実行していくことの必要性を痛感しています。残念ながら、この原稿の執筆時点(2020年3月20日)では、新型コロナウイルスは未だ収束の兆しは見えません。教職員や学生がその被害にあわないことが第一ですが、それとともに、我々情報科学技術に携わる研究者としての使命について改めて考えて行くきっかけにしたいと思います。

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© Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Japan