コペンハーゲン大学研修体験記 (松本 悠希)

はじめに

大阪大学大学院情報科学研究科の,グローバルGCOEプログラムによる海外インター ンシップ制度を用いて, 2011年6月5日から2011年8月26日までの約3ヶ月間デン マークのコペンハーゲン大学(University of Copenhagen)にてインターンシッ プを行いました.そこでの研究内容とデンマークでの生活や体験について報告し ます.

研修先決定までの経緯

修士課程の修了直後であったこと,研究テーマに区切りがついてタイミングが良 かったことなどが重なったため,海外インターンに行くことを決めました. これ が2011年3月頃の話で,実際に行くのは夏頃が良いと思い,その時期に受け入れて くれるラボを,1ヶ月ほどかけて探し,コペンハーゲン大学生物学科にある Molecular Microbial Ecology group の Lars H. Hansen 准教授に受け入れて もらえることになりました.

研修内容

抗生物質獲得に寄与しているとされる IncX1プラスミド に着目して,病院下水 道に生息するラットの体内細菌について,抗生物質耐性とIncX1プラスミドの関 係について研究・調査を行いました.以下に詳細を記します.

僕は情報工学出身の人間で学部のときに生物学の実験を経験してこなかったの で,このような機会で初等的な実験を繰り返し経験できたことは大きかったです.

背景

抗生物質耐性の獲得の機構については,様々な調査・研究が行われていますが, 一方で病院内においては,下水などに廃棄物として処理された抗生物質が含まれ ます. そこで,下水に生息する細菌の抗生物質耐性が現状どうなっているかの把 握が必要であり,国立病院の下水道に生息するラットの保有する細菌の抗生物質 耐性を調べるプロジェクトが推進されています. 本研修では抗生物質耐性獲得 の主な要因と考えられているIncX1プラスミドグループと抗生物質耐性の関係に ついて調査しました.

IncX1プラスミド保有株の調査

IncX1 プラスミド DNA 断片に特異的に反応するプライマーを用いて PCR を行 い,増幅させた DNA 断片をゲル電気泳動することでプラスミド保有株の特定を 行いました. 検証を行った株は3匹のラットから単離した計288株(各ラットから 96 株)です. なおこれらの株は私の従事したプロジェクトのためにラボストッ クとして保存されていたものです.

ゲル電気泳動の結果から,特にバンドが強く現れてきた6株に注目しte,次にこれ らの抗生物質耐性について検証を行いました. 抗生物質は ampicillin, kanamycin, tetracycline および trimethoprim を使用し, LB寒天培地に添加 し,注目した株をそれぞれ植菌し,37°Cで一晩培養したところ,選択してきた6株 が多剤耐性を示しました.

トランスフォーメーション

次にこれらの抗生物質耐性とIncX1プラスミドの関係を調べるために大腸菌株へ のIncX1プラスミドの導入を行いました. 形質転換には元株として大腸菌の GeneHogs,形質転換法としては細胞膜に電気パルスを与えて遺伝子を導入する electroporation 法を用いました.

形質転換後,大腸菌株を抗生物質を添加した寒天培地で培養しました. これによ り形成されたコロニーを単離培養し,IncX1プラスミドの保有の有無を調べまし た. その結果,調べた17株いずれにおいてもIncX1プラスミドの保有は認められ ませんでした.

このような結果が得られた原因として,ラットの腸内細菌の持つIncX1プラスミ ドに何らかの変異が起き, PCRで用いたプライマーがうまく働いていないことが 考えられます. 元のラボストックのDNA分子を抽出し,ゲル電気泳動にかけたと ころ, IncX1プラスミドと同様の長さのDNA分子の存在が確認できました.

この分子はIncX1プラスミド由来のものである可能性がある一方で,この分子を 持たない株においても抗生物質耐性が認められました. IncX1プラスミドは細 菌間で接合を起こし遺伝子の水平伝播を起こすことから,抗生物質耐性の主な要 因となっていると当初は考えていましたが,この結果は(少なくとも下水道に生 息するラットの腸内菌の)抗生物質耐性の獲得にはIncX1プラスミド以外の要因 の強い関与を示唆しています.

今後の展望

次にやるべきことは,50kb付近にバンドの現れたこれらのDNA分子が,本当に IncX1プラスミド由来のものなのかを検証することなのですが,ここまでの実験 で滞在期間に終わりが来てしまったため,話し合いの結果,残りの仕事はHansen先生に 引き継いでやってもらうこととなりました.

ラボ風景

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研修に来てこのような実験台が与えられました.

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実験以外のときはオフィスで作業します.

海外での生活

デンマークは北欧の入口に位置するため緯度が高く,また行った時期が夏だっ たこともあり,日照時間が非常に長いことに驚きました(午後10時頃まで昼間の ように明るい).一方で涼しく海からの風もあって,非常に過ごしやすい気候で した.

寮では水回りが他の留学生と共用だったため,空間を共有していると自ずと会 話が生まれたのは良かったです.日本人としては寿司バーなるものがコペンハー ゲンのいたるところにあったのが印象的です.

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賑わう繁華街

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城にて

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教会にて

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寮の自室はきれいでした

おわりに

3ヶ月と短い期間ではありましたが充実した日々でした.行く前は,やっていけ るのかと若干の不安もありましたが,行ってしまえば案外どうにでもなること を身を以って体験できたことが何より良かったと思います.

最後になりますが,研究の一息ついたこの良い時機に,海外インターンシップに 行くことを勧めてくださった研究室のスタッフの方と,受け入れ先として快諾し てくれ,3ヶ月間を共に過ごした Hansen 先生およびスタッフ・学生の方々に感 謝します.

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Lars H. Hansen 先生と