RWTH Aachen University 研修体験記 (中島 康祐)

滞在先

10月3日から1月17日までドイツにあるRWTH Aachen Universityに研究インターンシップ生として滞在し,研究に参加した.滞在先であるアーヘンはドイツ,ベルギー,オランダの三国が国境を共有する辺りにある.街には世界で最初に登録された世界遺産のひとつ,アーヘン大聖堂があり,その周囲には歴史的な雰囲気のある町並みが広がる.ドイツ国内でも盛大にクリスマスマーケットが行われる地として,また温泉地としても有名で,12月の週末には多くの観光客を見かけた.

 RWTH Aachen Universityは街の北側を中心に並ぶビル群で運営されている.キャンパスを持たず,ビル群は街に溶けこんでおり,大学が所有する建物にはそれとわかるようにそれぞれ看板が掲げられている.滞在したComputer Scienceは街の北西,銀杏並木が美しい通りのそばに立つ建物に割当てられていた.所属した研究室,Media Computing Groupは教授のJan Borchersを中心に,12名の博士課程学生,以下,修士や学部の学生で構成される.研究分野はHuman Computer Interactionであり,中でも,Tabletopを始めとするInteractive Surface向けユーザインタフェースの提案,プログラミング支援環境の構築が盛んである.ACM CHIカンファレンスにおいてGernamy’s Best-published research groupとなるなど,成果は著しい.

研究内容

今回のインターンシップでは,テーブルトップシステム上に置いて利用する物理的なウィジェットの認識方法に関する検討を行った.このテーマは,新たに始める研究プロジェクトの一部となっており,プロジェクト全体はいくつかの企業との共同研究の形となっていた.
本研究室ではテーブルトップシステムでのインタラクションの検討が盛んに行われており,これまでにSLAP Widgetと呼ばれる物理的なウィジェットの提案をしている.これは,カメラベースのマルチタッチディスプレイの上に置いて利用する物理的なウィジェットで,水平に置いたマルチタッチディスプレイの任意の位置に即席で配置した物理的なボタンやスライダを通じて画面内のオブジェクトを操作する手法であった.参加したテーマではこれを発展したもので,従来の研究で制約になっていた部分を解消するとともに,これまでは実現が難しかった入力方法も可能にすることを目指したものであった.
プロジェクトには私を含めた3人の学生が参加することとなり,私は主にハードウェアの実装と基本的な原理検証を中心に進めることとなった.最初の打ち合わせで3年間の計画について検討がなされ,投稿計画を含んだ大きな流れが共有された.
進捗するにあたっては,トライアルアンドエラーで進めていかざるをえない状況が続いた.プロトタイプを作っては試し,そこで生じた現象から仮説を立て,またそれを検証することを繰り返し,少しずつ確かな発見を得ることができた.
こうした仮説を素早く検証して研究する上で,それなりの精度で素早くプロトタイプを作ることは非常に重要であった.その点,滞在した研究室の開発環境は充実していた.特に,ハードウェアに関しては研究室内でFablabが運営されており充実した研究環境であると感じられた.レーザーカッターや3Dプリンタ,その他の工具や基本的な材料が揃ったFablabが,同じ建物内に用意されており,運営に関わる研究室の学生は自由にそれらを利用できる.これによりプロトタイプの制作や実験のためのツールが簡単に作成でき,効率的に作業できた.また,他の研究室の学生もFablabに出入りしており,それぞれのメンバーの専門を活かして互いにアドバイスできる環境となっており,研究を進める上で必要な知識を得ることにも役立った.こうした設備が身近にあることは研究効率を高める上で非常に重要であると感じた.
今回の期間を通じて,開始時点で目標とした開発内容の全ては網羅できなかったものの,いくつかの新しい発見をすることができ,それらに基づいて実際にマルチタッチディスプレイ上で認識できるウィジェットを実装できた.
また,研究室の運営に関しても大いに学ぶ部分があった.特に感心したことは,ガイドライン化でマネジメントコストを下げつつ,捻出したリソースを具体的な研究計画の下で集中的に消費するスタイルと,それを実現している様々な仕掛けについてである.Fablabのように様々な所属の人間が共同利用する施設があることや,学部生や修士学生が卒業論文にかける期間が短いことを背景として,研究室内には徹底したガイドラインが敷かれている.最低限のガイドラインを明文化したものがウェブ上にあり,これを参照して作業することとなっている.とはいっても堅苦しい雰囲気は全くなく,むしろ教授を始め非常にのびのびとやっているようであった.すべてが上手く機能しているわけでもないが,合理的なシステムを持って確かな成果を上げていることには大いに学ぶべき点があると感じた.こうした学びは私個人としての学びで終わらせずに,私の周囲の研究グループに良い影響が及ぶように行動に移していきたいと考えている.

おわりに

この海外インターンシップでは,研究内容のみならず,研究の進め方や研究環境についても学ぶ点が大いにあった.こうした学びを知識として終わらせず,これからの実践の中に反映して,今後の成果に繋げて行きたい.