IMEC留学体験記(二宮 祥)

はじめに

大阪大学大学院情報科学研究科の海外インターンシッププログラムを用いて2012年7月から、2012年11月までの約4ヶ月間、ベルギーのルーヴェンにある研究機関IMECのFrancky Catthoor先生の下で研究活動を行いました。

IMECについて

IMECはInteruniversity Microelectronics Centreの略であり、Katholieke Universiteit Leuven (KUL)のスピンオフ研究機関です。KULの学生数は大阪大学の約二倍、海外から来た学生の数は三倍にも及びます。IMEC自体は、3、4棟ほどの建物からなり、広大なキャンパスに比べれば小さく見えますが、世界中からの研究者が大勢集まっています。また、企業ではない研究機関では珍しいことですが、IMEC内にはクリーンルームがあり、設計されたプロセッサのプロトタイプを自分たちで製造することができます。つまり、プロセッサを設計するだけには留まらず、材料、テストなど様々な分野を巻き込んだ研究が盛んに行われている、世界的に見ても最先端の研究機関だと言えます。
私が所属したSmart Systems and Energy Technologyという部署では、スマートフォンや携帯型音楽プレーヤーなどの組込みシステムと呼ばれるプラットフォーム上で実行される無線通信アプリケーションやマルチメディア・アプリケーションなどの省エネルギー化について研究しています。プロセッサの構成や、それら複数のプロセッサ間の接続(通信アーキテクチャ)を考えるハードウェア面からのアプローチと、アプリケーションのより良いアルゴリズムを考えるというソフトウェア面からのアプローチの二種類が存在しており、SSETに所属する研究者はお互い、それぞれの分野からの意見を聞くことを欠かしません。


研究の様子


クリーンルーム

研修内容

私はIMECで、マルチプロセッサ・システムにおける組込みアプリケーションの分割と割当て問題に取り組みました。無線通信アプリケーションやマルチメディア・アプリケーションにはますますの高性能化・省エネルギー化が求められていますが、これらのアプリケーションを適切に分割し、プロセッサ・コアへ割り当てる手法が多く研究されています。すでにIMECでは、この問題を解くためのフレームワークを提案していますが、プロセッサ間の通信には、最も単純な通信方式と言えるポイント・ツー・ポイントを想定しています。このフレームワークに今井研究室で長年研究してきたバス・アーキテクチャ探索手法を取り込むことで、さらによいプラットフォームを生成するフレームワークを作り出そうというのが今回のインターンシップの最終的な目標です。
 はじめに、フレームワークにおける入力となるアプリケーションの表現方法について調査しました。フレームワーク内では、アプリケーションをプロファイリングしたり、プロファイリング後のグラフから情報を読み取ったりしますが、探索アルゴリズムが必要とする情報をグラフが過不足なく持つべきです。また、無線通信アプリケーションやマルチメディア・アプリケーションでは、シンボルやフレームといったトークン単位で、データが処理されますので、そのような小さなデータをうまく表すことのできる表現形式を用いるべきです。今回はデータプロセス・ネットワークとよばれるアプリケーションの表現形式の中でも、Cyclo-static Dataflow (CSDF) という循環的な動きをするアプリケーションを表現するのに適したグラフを採用しました。
 つぎに、バス・アーキテクチャがプラットフォームの面積や消費電力などの性能に与える影響について調査しました。予備実験にて、プロセッサ・コアが計算に使うことのできる時間(サイクル・バジェット)がプラットフォームの面積・消費電力に大きな影響を与えることを示し、バス・アーキテクチャのなかでも、バス幅、バス周波数、バスの本数、チャネル優先度などがサイクル・バジェットを変える要因となることを明らかにしました。これらのパラメータから、最適な組み合わせを見つけることがバス・アーキテクチャ探索の目的となりますが、全探索的なアルゴリズムに頼ってしまうと、解の数が数兆、数京に上るため、現実的な時間にプラットフォームを得ることができなくなります。そこで、アプリケーションの仕様などの情報を用いて、不必要な解を探索しないようにする「枝刈り」を行うことで、短時間で精度の高い解が得られるようにしました。
 最後に、考案したアルゴリズムをフレームワークに統合するという作業が必要となります。この作業は今回の滞在期間中には終わりませんでしたので、今後、取り組んでゆきたいと考えています。

ベルギーでの生活

ベルギーでの生活を最も特徴づけるものは「食」です。フリッチェと呼ばれるフライドポテトは、日本のものと違い非常に太く、ホクホクとした食感が味わえます。どのレストランでも、別の食事の付け合わせとしてでてくるほどポピュラーです。また、街にはインド、メキシコ、トルコなど世界中の料理店があり、様々な国の人々が暮らしていることがうかがえます。
ルーヴェンはKULが近くにあることもあり、非常に大きな学生街でした。入学のシーズンともなると、数千人規模で音楽のライブ、24時間マラソンなどのイベントが開催されます。街の中心部のストリートには若者向けのブティックが多く、また、街が運営するレンタサイクルは、KULの学生を対象に、大幅に割り引いてくれます。大学生活を満喫するにはうってつけの場所であると感じました。


研究チームディナー

おわりに

 今回のインターンシップ以前にも、ヨーロッパに行ったことはありましたが、3ヶ月以上という長期滞在を通して、楽しかったこと、つらかったことも含めて、今までにできなかった様々な経験ができました。特に、海外の文化や生活のリズムに慣れるといった、研究活動とは一見関係のないことでも、うまく行かない間は勉強や研究に専念できませんでした。また、友人と呼べる人が居なかった最初の間に体調を崩すなど、精神的にも身体的にも大変な時期がありました。ですが、自分からちょっとだけ勇気を振り絞って話しかけることで、すぐに友人はできましたし、現地の生活についても聞くことができました。私自身の前向きに生きていこうとする力が鍛えられた4ヶ月間であったように思います。  最後に、このようなすばらしい留学経験をさせてくださった大阪大学の先生方、IMECの方々に心からお礼を申し上げます。