ETC-Lab 研修体験記 (越智 惇也)

はじめに

私は大阪大学の海外インターンシッププログラムで、2012年9月20日から2012年12月19日までの約3ヶ月間、カナダのトロントにあるUniversity of TorontoのErgonomics in Teleoperation and Control Laboratory (ETC-Lab)において、Paul Milgram先生の指導のもとで研修させて頂きました。現地での体験、及び研修内容について報告させて頂きます。

トロント

トロントはカナダの東部に位置し、カナダ最大の都市として知られています。金融や経済の中心地ですが、アイスホッケーが盛んであったり、劇場等が密集する地帯があったり、多くの側面を持っています。それらが集う地区はNeighborhoodと呼ばれ、金融地区やファッション地区、学術地区、エンターテインメント地区、他にもコリアンタウンやチャイナタウン、イタリア人街やギリシャ人街、インド人街など多くの地区がありました。カナダの移民の歴史を反映しており多くの民族の人々が生活しているのだと感じました。自然が残された島や大きな公園がある反面、人工島や新しい建造物も多かったです。

トロントの街

学術地区と通りの名前を表す標識

現地での生活

私が滞在したのは晩夏から初冬までだったので、凍えるほど寒いということはありませんでした。用心して厚着したからというだけかもしれませんが、家の中がとても暖かかったと思います。ちなみに私はホームステイをしていました。ホームステイ先は市内から少し離れており、大学まで地下鉄で40分ほどでした。トロントは交通網が発達しており、バス、地下鉄、ストリートカー(路面電車)を利用して移動していました。それらの公共交通機関は全てTTCと呼ばれる会社が運営しており、どの区間でも一律3ドルなので定期を持っていればトロント市内であればどこへでも行く事ができました。

ホームステイ先のご家族(左のお二人)

ストリートカー(路面電車)

University of Toronto

University of Torontoはトロントの中心に位置しており、古くからある建造物と最新の建造物が混在している大学です。街と複合しており敷地内には一般道が通り、博物館や駅も点在しています。日本人の感覚だからかもしれませんが、大学内の生協のような場所で一般の服屋さん並に服が陳列されていたり、非常に巨大なアスレチックセンターがあったりで驚かされました。建物内にはカフェやコーヒーショップが点在しており、トロントの人のコーヒー好きが伺えます。晴れた日には外で昼食を取る学生が多く見受けられ、不定期でフードトラックと呼ばれる屋台のようなものも路上で食べ物を販売しています。

University of Toronto

昼食を取る学生

研修内容

私が在籍していたETC-Labはヒューマン・ファクターをテーマとして扱う研究室です。現在はドライビングシュミレーションに関する研究や、医療に関わる研究テーマに取り組んでいます。医療に関係する研究の一つに運動視差による視点合成が挙げられます。運動視差による視点合成とは、固定点からの数枚の画像を元にそれらの画像間の任意の視点の画像を生成する手法です

 ETC-Labでは以前より、内視鏡手術における視点合成技術の利用に関して研究に取り組んでいました。内視鏡手術、特に腹腔鏡手術では患者の体に小さい切り口を開けて体内に内視鏡カメラを挿入します。内視鏡カメラの先端に3つのレンズを取り付け、それぞれのレンズから得られる画像からリアルタイムに視点合成を行うことで、患者の体内における医師の空間認識を補助するというものです。内視鏡カメラを大きく動かすと患者の体内を傷つけてしまうので、単眼の内視鏡カメラでは患者の体内において奥行きを知覚することが困難です。視点合成によって得られる、連続的な視点を提供する画像は医師の奥行き知覚を補助することができ、空間認識に対して有用であると考えられます。

 私が派遣される直前に、ちょうど視点合成技術を利用した空間認識の補助の有用性を評価する研究が行われていました。実際の医療現場で使用して評価するのではなく、それを模した環境を作り、被験者を募って実験を行いました。実験内容は診断と操作というタスクに限定して実験を行い、視点合成技術の評価を行いました。具体的な内容としては、二本の棒を交差させたものを上から撮影し、被験者にその画像を提示してどちらの棒が上(手前)にあるかを判断してもらうというものです。まず、二本の真っ直ぐな棒を交差させ、交差点上に円盤を被せます。棒と円盤はそれぞれ患者の体内における血管と臓器に見立てており、上から見た時に臓器に二本の血管が繋がっている様子を再現したものです。交差点は臓器として見立てた円盤で隠されており、どちらの棒が上にあるのかがわかりにくくなっています。それらを上から三角形の頂点となるように設置した3つのカメラで撮影し、得られた画像から視点合成を行います。物体を3視点の中心から見た場合の単一画像の画面(条件0)、三枚の画像を同時に表示した画面(条件1)、一枚の画像が提示されておりユーザが別の2視点の画像に切り替えることが可能な画面(条件2)、一枚の画像が提示されており視点合成によって連続的に視点を移動させることが可能な画面(条件3)の4条件下で実験が行われました。被験者は各条件の画面が提示され、毎回どちらの棒が上にあるかを判断します。影や形状から奥行きを判断することがないように、棒には粘土状のものをコーティングし、画像はそれぞれ棒の高さ、角度、向き等の条件を数種類使い分けて撮影されました。被験者はタブレット端末とペン型スライダーを用いて視点を操作します。各条件で12枚の画像を提示し、それを1ブロックとして1人あたり4ブロックのタスクで実験が行われました。被験者の数は16人です。

 実験後のアンケートによると条件3が最も判断が容易で条件0が最も困難だったとの結果が得られました。実際の正答数から検定した結果によると条件2よりも条件3の方が優れており、条件0よりも条件1の方が優れていました。しかし、2、3名の被験者は条件3ではなく条件1、条件2において最も高い正答数でした。最終的に、視点合成は奥行き知覚のパフォーマンスに効果的であるという結果が得られました。

 私が取り組んだ研究は、前述の実験で用いられたシステムの評価である。実験では、視点の操作方法はペン型スライダーを用い、タブレット端末上でペン型スライダーを動かすことで視点を操作するものでした。しかし、実際に医師がシステムを使用する場合には、両手が使用できない場合も考えられます。そこで、手を用いない視点操作方法としてヘッドトラッキングによる視点操作方法を実装し、システムの評価を行います。トラッキングシステムの開発において、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とMicrosoft Kinect(デプスセンサ・カメラ)によるトラッキング方法が考えられましたが、派遣前はKinectを用いた研究を行っていた経験から、実装の容易性によりKinectを選択しました。Kinectによる骨格トラッキングを利用してユーザの頭部の中心をトラッキングし、その座標をもとに画面上での視点を計算して投影します。

 テーマを決めるまでもそうでしたが、具体的な方針を決めるまでに少し時間がかかってしまったので、Paul先生や同研究室の他の学生の方に意見を頂きつつ急いで実装を進めました。実際に試してもらい、多くのフィードバックを頂きました。現地でほぼ実装を終えることができ、実験も行いたかったのですが、残念ながら時間が足りずに帰国することになってしまいました。派遣期間終了後も日本で研究を続行しています。

実験に使用された装置の一部

実験に使用されたカメラ

おわりに

この海外インターンシップを通して、本当に貴重な体験をすることができました。たったの3ヶ月間だけですが、充実した日々を過ごすことができました。はっきりと何を得ることができたと答えることは困難なほど、多くのものを得ることができたと思います。楽しいことばかりでなく、言葉の壁に苦しむことももちろんありましたが、それも含めて海外インターンシップに参加して良かったと感じています。

 最後になりましたが、今回の海外インターンシップにあたり、多くの方にご助力して頂きました。このような機会を与えてくださった先生方、支援をしてくださった大阪大学及びJASSOの方々、ホストファミリーの方々、ETC-Labの方々、お世話になった全ての方々に、心より感謝致します。

Paul先生(右)と