UCLA 研修体験記 (仲嶋 翼)

はじめに

大阪大学大学院情報科学研究科の海外インターンシッププログラムを用いて2012年11月より、2013年1月までの3か月間、カリフォルニア州のロサンゼルスにあるUCLA(University of California, Los Angeles)のJames Liao教授の研究室に滞在し研究活動を行いました。その体験の報告をさせていただきます。

UCLAについて

UCLAはカリフォルニアの州立大学の一つで、ロサンゼルス市の西部ウエストウッドに位置します。UC(カリフォルニア州立大学)シリーズの中ではキャンパスサイズは小さい方ですが、学生数は多く活気のある大学です。アメリカの大学に共通していることですが、大学自体が非常にブランド化されています。学内外に多くのUCLAグッズの販売店があり、多くの学生がUCLAブランドのものを着用しています。いたるところにみられるスクールカラー、キャンパスの景観など統一感があり学生はみなスクールに誇りを持っていることが感じられます。学内の人種構成は多様で、もともと多様なロサンゼルスの中でもさらに多様性が高まっています。学業成績(GPAと呼ばれる)が重視されるので学生は非常に熱心に勉強していますが、クラブやサークルの活動にも熱心です。

キャンパス内

キャンパス内2

研究室

滞在した研究室はDepartment of Chemical and Biomolecular Engineeringに所属しており、改変微生物を用いたバイオ燃料生産で有名なJames C. Liao教授の研究室です。研究室のファカルティは教授のみで、以下ラボマネジャー、8人の博士研究員、PhDコースの学生が14人、複数人のテクニシャンが在籍しています。PhDコースは基本的に5年一貫で、一部の修了要件は学科から課されています。しかし論文数やカンファレンスでの発表回数などのリクワイメントは決まっておらず、教授の判断の裁量が大きくなっています。また10人程度の学部学生が、カリキュラムの空き時間を使用して経験を積む目的で研究をしに来ています。彼らはPhDコースの学生や、博士研究員から直接指示を受け研究活動を行っています。

研究の様子

研究内容

私が携わったのは計算機による代謝シミュレーション技術の一つである、アンサンブルモデリングを用いてシアノバクテリアのブタノール生産に向けた代謝改変戦略を調査することです。

背景:
近年エネルギー問題や化石資源の枯渇から持続可能な社会に向けてバイオプロダクションの開発に注目が集まっています。これは植物が固定した炭素を微生物の発酵能力によって様々な有用化合物を生産させるというプロセスです。現在特に注目が高まっているものとして、光合成微生物を用いて直接CO2から有用化合物を生産させるという試みがあります。これは植物と比べて食料需要と拮抗しない、光合成効率が良いなどの利点があり期待が高まっています。Liao教授の研究室も、実際に光合成微生物であるシアノバクテリアを用いて、1-ブタノールなどの生産に成功しています。これは他の微生物が持つ代謝経路の一部を遺伝子組換え技術によりシアノバクテリアに導入することで、光を照射しながら菌体の培養を行うと、これらの化合物が生産されるという系です。複雑な代謝を改変し更なる物質生産性を求めるためには、代謝をモデル化し振る舞いを理解することが有用と考えられます。代謝のモデリングもさまざまな方法が考案されていますが、Liao教授が提案されているのがアンサンブルモデリングです。代謝反応の時間的な変化を記述するには各反応の触媒である酵素のキネティクスの情報が必要となります。しかし、細胞が持つ各酵素についてそれらを網羅的に決定することは非常に難しいという問題がありました。そこで各酵素のキネティクスのパラメータをランダムに決定したモデルのアンサンブル(集合)を用います。本研究では、このアンサンブルモデリングを用いて、シアノバクテリアによるブタノール生産系に効果的な代謝改変を探索することを目的としました。そこで今回は中央代謝経路に同一の生産経路を付加した上で過剰発現することで生産性向上に貢献できる経路の調査を行いました。

方法と結果:
まず文献を参考にしながら、シアノバクテリアの中央代謝を定義しました。モデル上では、各代謝反応がどの反応物からどの生成物が生じるかという情報を含んでおり、代謝経路のそれぞれの素反応をモデル表現しています。反応速度は各物質の濃度、酵素濃度、速度定数によって変化し、本質的には全ての反応が可逆となります。
続いて野生株の代謝フラックス分布を満たすようなキネティックパラメータ(反応の可逆性、酵素の状態比率)をランダムに決定しました。このランダムな組み合わせの数を本研究では1000モデル作成しています。このランダムにサンプリングした代謝モデルに対して遺伝子の過剰発現などの摂動を与え、その結果として起こる振る舞い(代謝フラックスの変化および代謝物質濃度の変化)を評価しました。具体的には、まず2分子のアセチルCoAから出発するブタノールの合成経路を付加し、その上で中央代謝内の経路の遺伝子発現を過剰に設定しました。今回は培養した細胞に発現誘導剤を添加することで狙いの遺伝子の発現量を特異的に上昇させる系を想定しました。そのため、遺伝子発現の減少や、遺伝子の削除は考慮していません。
中央代謝系内の様々な経路の過剰発現を試した結果、炭素原子を炭素固定サイクルに回す炭素フラックスと、ブタノールの生産に回すフラックスの比率が重要である点が分かりました。シアノバクテリアの炭素固定にはそれ自体にも炭素骨格が必要であり、それに回す炭素が不足すると結果として全体のブタノール生産性が悪くなるためです。また細胞は増殖、すなわちバイオマス(菌体成分)を合成するのに炭素源を消費します。これはブタノール生産と拮抗しますので、これを抑える必要があります。本研究では、一部の経路の過剰発現によって効果的に炭素のフラックスのバランスを変化させ、併せてバイオマス合成を抑えることでブタノール合成フラックスを高められることをシミュレーションで確認しました。また複数経路の発現増強の組み合わせにより、さらに生産性を高められることを確認しました。競合する経路を削除することなく、過剰発現のみによってうまくブタノール生産のフラックスを向上させられる可能性を示唆しています。実際の培養においては、発現誘導までの間に細胞にバイオマス合成を阻害するなどの負の影響をあたえないことから、細胞の増殖フェーズと物質生産フェーズを分けるプロセスにおいて効果的であると考えています。

ロサンゼルスでの生活・文化

ロサンゼルスは非常に多様性に富んだ地でした。さまざまな文化背景を持つ人が住んでおり、市内には地域ごとに文化の偏りがあります。コリアン地区、ジャパニーズ、チャイニーズ、ジューディッシュ(ユダヤ人)の多い地区は確認しましたが、それ以外にも沢山の小タウンがあるのだと思います。多様な人々が住んでいるためか、ルールが非常に厳しく定められていると感じました。アルコール飲料を買うにもバーに入るにも必ず身分証明書のチェックが行われます。交通の規則も非常に厳格で、違反者には高額の罰金が科されることからルールはよく守られていると感じました。

西海岸は移民が多いせいか、アジア人でも、英語力が不十分でも、非常に親切にしてもらうことが多かったです。英語がもちろんメインですが、メキシカンが多くしばしばスペイン語での併記が見られます。地域ごとの治安の差も大きく、外出する際は予め確認しておくことが大事でした。UCLAからの帰路では最終バスに乗ることも問題ありませんでしたが、郊外には車に乗っていても近づいてはいけないという地区もありました。
日本と比べて社会のシステムは不便と感じました。ただそのかわり全員がコミュニケーションでカバーをしています。一例ですが、日本のバスでは停車ボタンがどの位置からでも押せるようになっていますが、LAではバスの両サイドにしかなく、場所によっては人に頼まないとなりません。初めは不便に思いましたが、慣れた後は日本のシステムが必要以上に快適ではないかとも思うようになりました。またバスにお年寄りや身体の不自由な人がいると率先してスペースを譲ります。日本に比べ自発的で気持ちよく譲りあいが行われています。お店や道端でも人と話すことが多かったです。知らない人同士が、同じ地域社会に住む者同士としてコミュニケーションを多くとるという、最近の日本では少なくなりつつある環境に心地よさを覚えました。

滞在したアパートの周辺の様子

日系のショップが多いエリア

終わりに

本研修により非常に貴重な体験をすることができました。優れた成果を出している研究室のスタイルを肌で感じることができました。またコミュニケーションの基礎は日本でもインターナショナルな場であっても違いがないことに気づいたり、英語能力の必要を非常に感じました。日本人以外とのコミュニケーションにも必要ですが、日頃の情報収集の速度を高めるためにもさらに英語の能力を高める必要があると切実に思いました。

 最後になりますが、海外インターンシップを承認してくださった先生方、大学スタッフのみなさま、3ヶ月の受け入れを承認してくださり研究室でお世話になりましたJames Liao教授およびスタッフ・学生の皆様に心より感謝申し上げます。