University of California, San Diego 研修体験記 (松下直樹)

はじめに

情報科学研究科海外インターンシッププログラムで、2013年8月12日から2013年10月3日までの約2か月間、アメリカのカリフォルニア州に滞在し、カリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California, San Diego)にてインターンシップを行いました。インターンシップの内容と海外での生活について報告致します。

サンディエゴ

サンディエゴはアメリカ西海岸にあるカリフォルニア州の南に位置しており、メキシコの国境と接しています。そのためアメリカの文化とメキシコの文化が融合しており魅力に溢れた国際都市です。

一年を通して暖かく、雨が少ないためとても過ごしやすい気候です。蒸し暑さもありません。実際、私が滞在した2か月間は一度も雨が降りませんでした。

サンディエゴには、サンディエゴ動物園、シーワールド、USSミッドウェイミュージアム、バルボアパークなど短期間の滞在では行き尽くせない程多くの見どころがあります。

オールドポイント ロマ岬灯台からの眺め

カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)

UCSDはサンディエゴの北部のラホヤに位置し、1959年に創設された比較的新しい大学です。ラホヤは芸術家の町でもあるためか、芸術的な造形や工夫を凝らした建物が多く存在しました。

UCSDを象徴する図書館。自習のための環境も整っていました。

私が研究させて頂いたデスク。設備が整っており静かな環境であったため、集中して研究に取り組むことができました。

研究背景

近年、創薬の分野において High Throughput Screening(HTS)と呼ばれるロボット等を用いて実験を機械的に行うことで効率よく創薬資源となる化合物を見つける手法が一般的となっています。しかし化合物データベースに登録されている化合物数は膨大です。そのためいくら機械的に実験を行うとはいえ、全ての組み合わせにおいて実験を行うことは開発コストの増加にもつながり現実的ではありません。

そこで、知識に基づいた有用な化合物の検索手法としてタンパク質のドッキングシミュレーションが近年注目を浴びています。タンパク質のドッキングシミュレーションとは、計算機上においてターゲットとするレセプターと結合しやすい化合物はどれなのか、またどのように結合するのかを予測する手法です。ドッキングシミュレーションの結果を用いることで、HTSによって創薬資源となる化合物を発見する確率が高くなったとの報告がなされています。

しかしドッキングシミュレーションには大量の計算資源を必要とする問題点があります。この問題を解決する方法として2つの方法があります。

1.スーパーコンピュータの利用

スパコンを利用することで膨大な計算量を処理することができます。しかし、スパコンの購入・維持には莫大なコストがかかってしまいます。

2.グリットコンピューティングの利用

グリットコンピューティングとは、研究所間など離れた場所にある異なる種類の計算機資源を共有することで高性能なコンピュータを仮想的に作る方法です。グリットコンピューティングを用いたドッキングシミュレーションを行うことで、スパコンを利用しなくても効率的に創薬資源となる化合物を探索することが出来るようになります。

研究内容

私の行った研究内容は、レセプターファミリーに対するドッキングシミュレーションの結果を比較することにより、特定のレセプターや複数種類のレセプターに対して化学的に結合しやすい部分構造を発見するための手法の開発です。

化学的に結合しやすい部分構造を発見するための手法は以下の6ステップに分かれています。

1. 複数のレセプターに対してドッキングシミュレーションを複数のPCクラスタ上で行う。今回、ガン細胞を阻害する役割を持つ数種類のSSH(Protein phosphatase Slingshot homolog)1,2,3をターゲットとした。

2. 各ドッキングシミュレーション結果に対して、スコアの高かった上位2万個の化合物のリストを作成する。このスコアはレセプターと化合物の結合のし易さを表している。

3. 各ドッキングシミュレーションの結果から作成したリストに含まれている化合物に対してクラスタリングを行う。ここでは化学構造が似ているものを同一クラスタとしてまとめる。

4. ある2種類のドッキングシミュレーションのクラスタに対して、構造が似ていると思われるクラスタ同士を1つのペアとする。

5. ある1つのペアに対し、ペア内に含まれるすべての化合物間の化学構造の類似度のスコアを計算する。

6. 化学構造の類似度のスコアを元に、化合物間の類似度を距離として二次元平面・三次元空間上に表現する。

研究結果

これらの処理により類似度のスコアを使って二次元平面上や三次元空間上に、類似度のスコアが高い組み合わせの化合物同士は近くに、類似度のスコアが低い組み合わせの化合物同士は遠くに配置することができます(図1、2参照)。つまりどの化合物の構造が似ているのか、もしくは似ていないのかを一目で確認することができ、ペア内に含まれている化合物間の類似度を把握することができるようになりました。

図 1: 二次元平面上に化合物の類似度をプロットした結果

図 2: 三次元平面上に化合物の類似度をプロットした結果

図3:ZINC00826733の構造

図4:ZINC00808546の構造

図3、図4はプロットした化合物の中で類似度の最も近い2つの化合物ZINC00826733とZINC00808546の構造です。一見似ているように思えますが、レセプターとの結合のし易さを表すスコアの値は異なります。構造の差異を調べることで、結合に影響を及ぼす部分構造を見つけ出すことができるようになります。

現地での生活

サンディエゴは、メキシコと国境を接する国際都市です。そのためバスの案内ではスペイン語が併記されており、携帯電話のパンフレットでは前半部分が英語、後半部分がスペイン語で書かれていました。

タイ、インド、ギリシャ、中華料理といった各国の独特な料理が学食など身近なところに存在したので、食べたことの無い料理にも積極的に挑戦しました。食の多様性の分だけ様々な国籍の人が住んでいるのだと強く実感しました。日本の飲食店とは異なり、ほとんどの店では店員と客との距離がすごく近かったです。その例として、レストランでは食事中に店員が「美味しいですか」と尋ねに来てくれます。美味しいと答えるととても嬉しそうに笑顔を見せてくれたことが印象的でした。

最初のうちは様々な国の料理を楽しみましたが、2週間ほど過ぎた辺りから日本食が恋しくなってきました。サンディエゴには日本人向けのスーパーがあると聞いたので週末に行ってみることにしました。日本人向けのスーパーなだけあって、店内からは日本語が聞こえてきます。久しぶりに周りの人が日本語を話しているのを聞くと、一瞬日本にいる錯覚に陥りました。

メキシコ料理のレストランで注文したブリトー。写真では分かりにくいですが、意外と量がありました。

おわりに

最後に、海外インターンシップに参加する貴重な機会を設けてくださいました情報科学研究科、松田先生、受け入れを承諾して頂き研究に関して多くのアドバイスを頂きましたJason Haga先生、現地での生活を助けて頂いたPeter Arzberger氏、Teri Simas氏、大野様ご夫妻、関口先生、大学での生活をサポートして頂きましたOlivia Yang氏に深く感謝申し上げます。