ミュンヘン工科大学滞在記 中川祥崇

はじめに

大阪大学情報科学研究科の海外インターンシッププログラムで,2014年10月01日から2014年11月30日の2か月間,ミュンヘン工科大学へ研究留学に行きました.実は私は「渡航費用の補助には落ちたが諦めきれず自費で参加した」というイレギュラーな立場だったので,同じような立場の人の参考にもなるように海外インターンシップをレポートしたいと思います.

ミュンヘンでの生活

ミュンヘンは,ドイツ南部に位置する非常に大きな都市です.バイエルン州の州都であり,ちょうど大阪くらいの規模でした.ミュンヘンの人々は陽気なことで有名です.人々の気質も大阪に似ていて,居酒屋で席が隣同士になれば友達!といった風に多くの人がフランクでした.私が到着した週はちょうどオクトーバーフェストの最終週で,会場では多くの人と仲良くなることが出来ました.生活についてですが,物価は高いです.大体すべてのものが大阪の1.5倍くらいの値段であるように感じました.かかった費用は飛行機の往復12万円,家賃は一般のアパートを借りたので2か月で20万円,生活費が15万円くらいです.トータルで50万円くらいかかりました.実はミュンヘンはとんでもない需要過多のため,現地学生でさえアパートを借りることは難しいのですが,僕は知り合いのドイツ人の留学生のコネで奇跡的に2か月だけ家を借りることが出来ました.なので大都市でのインターンに参加しようとしている方は,少なくとも住居だけは補助申請の段階で確定させておいたほうがいいと思います.また,ドイツの人々は仕事と生活のメリハリをきっちりつけていると感じました.朝は9時に研究室に来て,ほとんど全員が17時に帰ります.しかしその時間の間は皆集中して研究に取り組んでおり,学ぶところが多くありました.

ミュンヘン市内の風景とオクトーバーフェスト会場

ミュンヘン工科大学 (Technische Universitat Munchen)にて

ミュンヘン工科大学は,ミュンヘン近郊に位置する非常に大きな大学です.2009年にはTHESによるドイツ国内大学ランキングで1位になっているほどで,国からの研究費も重点的に配分されています.郊外や市内中心部にいくつかキャンパスがありますが,私が配属された研究室は市内中心部の普通のテナントの3階に位置していました.日本とは違い,研究室にはほとんどマスターの学生はおらず,ドクターの学生が15人くらい在籍していました.マスターの学生は研究体験の単位を取得するため週に2度ほど来るといった感じです.また私の研究室では,ドクターの学生は研究についても日常会話についても英語で話す風習があり,ドイツ語が話せなくても研究室では問題ありませんでした.

研究室内の風景

研修内容

今回の海外インターンシップでは,取得したEMG(筋電位)信号からリアルタイムでモーションを判別し,ロボットアームを動かすといったというシステムを一から構築しました.これは現地の学生が単位のために取り組む研究体験のようなプログラムに則ったものです.コントリビューションはないものの,普段の研究内容とは大きく異なる分野について経験を広げるといったことを目標に行いました. 最近注目を集めているロボットスーツには,このEMG信号からのモーション形成が使われています.この一連の過程はいくつかのステップに分けることができます.一つ目はEMG信号を皮膚表面から正しく取得するという,生体科学に関わる技術です.二つ目は取得した生体信号に信号処理,機械学習を施すことによって,元々被験者がどのモーションを行っていたのか判別するという情報工学に関わる技術です.三つ目はその判別したモーションを,ロボットにおいて再現するという機械工学に関わる技術です.このインターンシップでは全工程を一人で行い,肘関節の屈曲か伸展かというモーションの判別までを完成させることができました.

具体的には,まずEMG信号の取得方法を確立しました.生体工学の分野で主流となっている,皮膚表面にとりつけた電極パッドからEMG信号を取得する方法を採用し,電極から流れ込む微弱な電流をマイコンArduinoで検知しA/D変換した後,コンピュータへデジタル値として送信しました.この際の電極パッドの貼付位置が少しずれるだけでEMG信号の取得値が大きく変わってしまうので,最後までこの作業には手を焼きました.次に,3種類のモーションを示す教師データを保存しました.このときのデータの記録,信号処理,機械学習にはMatlab,Simulinkを使っています.使ったことのないソフトウェアでしたが,慣れれば非常に使い勝手がよく,日本に帰ってきてからも愛用しています.教師データは各モーションにつき400回程度記録しました.そしてそれらの平均,分散などのグラフを作製し,モーションに固有の特徴量を見出しました.例えば,教師データの1.00秒から1.50秒を見れば,肘関節の屈曲に特徴的な傾きが見て取れる,などといったものです.このように各モーション特有の特徴量を3つ設定しました.そしてその特徴量に対して機械学習を用いた分類を行いました.分類の手法は数多くありますが,今回はk-最近傍分類という方法を採用しました.これはシンプルですが,教師データが多い場合に強力に働きます.このような条件下で分類器を作製し,あらかじめ記録しておいたテストデータを分類しました.その結果,平均90%以上,最高94.9%もの確率で正しい分類を行うことに成功しました.また,EMG信号を取得しながら同時に判別を行う,ロボットスーツに近いオンラインシステムも作製しました.しかしそのオンラインシステムでは正しい分類が行えたものの,モーションの始まりから判別まで約5秒ほどのタイムラグがあり,このラグをなくすことが大きな課題として残りました.

このような研究を通して,EMG信号からモーションを作製する際のエッセンスについて学ぶことができました.専門外の分野にも触れることで,自分の専門分野を,より他分野の技術者と協力しやすいようにするコツが得られたと考えています.

リアルタイムでモーションを判別している様子

おわりに

今回の海外インターンシップは私にとって非常に貴重な経験になりました.研究での知見が得られたことももちろん重要ですが,なにより単身で新しい環境へ飛び込み,そこで英語で議論して,英語で考える,といった経験は日本では得られないものです.たった2ヶ月ですが,帰国後に留学生から「英語が上達したね」と言われたときは嬉しかったです.英語でコミュニケーションを取る上でのタフさ,恐れずに話をする度胸が身についたと自分でも実感しています.

最初に申し上げたように,私は残念ながら渡航費用の補助に漏れてしまい,すべて自費で海外インターンに参加しました.幸いにも私の場合は,選考に漏れたことが分かったのが7月中旬で,その後に日本学生支援機構の奨学金の審査に通ったことが分かってから,私費渡航の申請を受け付けてもらえました.なのでどうしても行きたい方は,諦めずに自身の奨学金を使うことを検討なさってはどうでしょうか.少なくとも私は無理してでも高い費用を払った価値はあったと思っております.

最後に,マスターの学生を受け入れてくださったTUMの方々,インターン先を紹介してくださった細田先生,日本と現地で相談に乗ってくれたステファンとジャスミン,そしてお世話になったすべての方々に厚くお礼申し上げます.