EPFL,海外インターンシップ(坂井 亮)

はじめに

大阪大学大学院情報科学研究科の海外インターンシッププログラムにおいて,2014年9月8日から2014年11月11日までの2か月間,スイスのローザンヌという都市にある,Ecole Polytechnique Federale de Lausanne(以下,EPFL)において,研究を行う機会を頂きました.EPFLのSchool of Engineering(こちらの工学部に相当)にある,Reconfigurable Robotics LabのJamie Paik教授のもとで研究に携わりました.特に,動的ひずみを検知することに適しているピエゾ素子圧力センサ(以下,ピエゾセンサとする)についての研究を行いました.以下では,その経験についてご報告いたします.研究内容の章では2か月間の研究内容について記述しています.また,研究内容にはあんまり興味がわかなくとも,海外インターンシップに行くことで得られたものやスイスがどんなところなのかを知りたいという方は,一部ですがスイス生活の章がありますので,こちらを見てください.

EPFL

EPFLは工学分野に特化した大学です.世界有数の工科大学として知られ,世界大学ランキングの中でも上位に位置しています.そんなEPFLは,多国籍の大学です.自身の研究室にも,イタリア人,韓国人,アメリカ人,フランス人…と多くの国々から優秀な研究者が集まっていました.研究の面で優れた業績の多いEPFLですが,息抜きに関しても規模が大きいです.2か月の間に,学生団体主催の様々なイベントやお祭りが大学全体で開かれており,毎週陽気な雰囲気に包まれていました.
EPFL
研究室のある棟から見たEPFLとレマン湖・山脈

研究内容

私がインターンシップで取り組んだ研究テーマは,ピエゾセンサの小型・集積化へ向けた製造法の改良です.

ピエゾ素子は,外部から受ける力に比例して電圧を発生させる素子として知られています.ピエゾセンサは,この素子を2枚の電極で挟むことで作られます.そして,受ける力に対する電圧差を読み取ることでその力の大きさを知ることができます.このセンサは非常に薄く作ることができ,動ひずみを検出するセンサになります.このセンサは様々な分野での応用が期待できます.例えば,ロボット工学の分野では,シリコンシートに埋没して外部から受ける力を感知可能な人工皮膚としての利用が考えられます.また,医学の分野においては,ヒトの体内の接触すると危険な部位に,外科器具で接触することでダメージを与えたくないという要望があります.衝突を的確に感知することでダメージを極力小さくすることができるため,ピエゾセンサが先端にある外科器具の開発も進められています.これらの利用法において,センサの分解能を大きくし,また,小さなスペースにセンサを配置するために,このセンサの集積化と小型化が必要となります.そして,用途に合わせて自由にセンサの形状が変更できることが望まれています.

上記の応用を実現するために,インターンシップ先の研究室では,小型で任意の形状に構築することが可能なピエゾセンサを開発しています.しかし,開発されていたセンサにはいくつかの問題点があります.センサの製造中にエッチングを行うことでセンサの電極とそれにつながる電気回路を作成するため,小さく,細い回路を作成することが困難です.また,素子を挟んでいる電極と電気回路が短絡しないようにするため,それぞれが重ならないように配置する必要があり,回路のために余分なスペースを用意しなければいけません.

これらの問題を解決するため,インターン中の研究としてピエゾセンサの製造法の改良に取り組みました.エッチングを利用せずにレーザー加工機で電極と電気回路を作成することで,従来の製造法よりも簡単にセンサを作成でき,かつ,小さく,細い回路を作成することができました.そして,1つ当たりのセンサに必要なスペースの削減が可能となりました.

ピエゾセンサの製造法の改良

ピエゾセンサは,一面が銅,他面が絶縁体の耐熱フィルム(カプトン) で構成されるシートとピエゾ素子で構成されています.ピエゾ素子を二枚のシートの銅の面で挟み,一枚の銅の面の端が+極,もう一枚の面の端が-極となります.図1に改良前のセンサの製造法を示しています.

改良前の製造法では,(i)シートの銅の面にnail polishで保護膜を作成します(図1の赤い領域が保護膜).(ii)作成する電極と回路の形状に保護膜を残すように,レーザーで保護膜を取り除きます(図1の黄色の領域が銅).(iii)次に,エッチングにより,余分な銅を溶かして電極と回路を作成します(図1の黒色の領域が耐熱フィルム).(iv)その後,残った保護膜を取り除きます.最後にピエゾ素子と作成した電極を導電性エポキシで張り合わせます.(v)は完成したセンサです.エッチングを使用するため,極端に小さく,細い形状を残すことが困難です.また,+極と-極の銅の面が短絡防止の目的から,二枚のシートを重ねず配置するための余分なスペースを必要となります.この問題を解決するために改良した製造法を図2に示します.

(i)+極と-極となる二枚のシートをそれぞれのピエゾ素子と銅の面が接する分だけ耐熱フィルムの面を削り,銅の面を露出させます.図2の下部はそのイメージを示しています.(ii)二枚のシートの露出部分に導電性エポキシをつけ,片方のシートのこの露出部分にピエゾ素子を接着させます.(iii)挟むようにして張り合わせます.(iv)レーザーを用いて,素子を挟んだシートから作成する電極と回路の形状に切り出します.(v)は完成したセンサです.この製造法により,レーザーにより電極と回路を作成するので,改良前よりも小さく,細い形状を作ることができます.また,二枚のシートの向かい合う面が耐熱フィルムとなるため,回路を重ねて配置でき,センサに必要なスペースを削減できました.

改良前のセンサの製造法
図1 改良前のセンサの製造法
改良後のセンサの製造法
図2 改良後のセンサの製造法

今後は,このセンサの出力応答と力のキャリブレーションを行った後,実際に人工皮膚に埋没させたり,RRLでの他の研究に応用される予定です.また,私の日本での研究は,カエルの身体構造の遊泳に及ぼす影響を調査することなのですが,このセンサを利用することで,脚から生み出される推進力を測定できる可能性があります.そのため,本インターンシップ中に,このセンサに防水処理を施して,水中での利用ができるようにしようと試みましたが,適切な防水処理を見つけることができませんでした.RRLとの協議の結果,この処理は,RRLでの研究として改良を行ってもらい,本インターンシップ終了後も,引き続き共同研究をする予定です.

スイス生活

研究内容はあまり興味がないという方でも,この章を読んだ方の海外インターンシップに参加する気持ちが強くなれば幸いです.EPFLがあり,私が住んでいたローザンヌという都市について書きます.

ローザンヌ

スイスは話されている言葉によって,主に4つのセクションに分割されます.ドイツ語圏,イタリア語圏,フランス語圏,ロマンシュ語圏(昔からの言葉らしいです)の4つです.ローザンヌはフランス語圏にあり,地理的にはスイスの中でも,かなりの左下の端の方にある都市です.スイスは多国籍の街が多くあり,ローザンヌも例外ではありません.おかげで,EPFLでも,街の中でも様々な国の人に出会うこともでき,それぞれの国の価値観を知ることもできました.おいしい料理もたくさん食べられます.ローザンヌは古くからある都市の一つで,街中にはところどころにスイスの歴史を勉強できる建物や眺めがあります.また,スイスの都市全体で,ワイン・音楽などのお祭りは伝統的なものから,現在の文化を取り入れたものまで数多く開催されており,文化的にも,芸術的にも新しく知るものが数多くあります.
ローザンヌの教会
ローザンヌ市内にある教会
朝市
たまに開催される朝市
festival
label swiss(音楽祭)
festival
label swiss

最後に

スイスにいる方々の生活リズムは,規則正しく,かつ,自身の時間を大切にするという精神が根付いています.朝9時には仕事は始まり,夜6時には終わらせたのち,家族や友人と過ごしたり.一人の時間に使ったりします.週末は全力で楽しみます.自分もこのリズムに則り2か月を過ごしましたが,非常に心地よい生活を送ることができました.また,研究室内のPh.Dの方や,同年代の海外の学生,海外で働く日本人,外国人と将来について話し,各々の考え方を知ることができたことは代えがたい経験となりました.今回のインターンシップを通して,海外で研究職に就くということ,自身の今後の進路と人生について,日本にはない新たな知見を得て,より深く物事を考えることができました.

今回このような貴重な機会を実現させる手助けをしてくださった情報科学研究科の先生方,スタッフの皆様に心より感謝申し上げます.また,主に,海外での生活を支えてくださった,シェアハウスの皆様に感謝します.最後に,2か月の間お世話になった,EPFL,RRLの皆様に厚くお礼申し上げます.

この体験記が,海外インターンシップに行こうか悩んでいる方の参考になれば幸いです.

party
研究室の皆が開いてくださったパーティー