研修体験記 (林 大晟)

はじめに

2015年09月24日から2015年11月21日までの約2ヶ月間,ポルトガルの首都リスボンにあるリスボンノヴァ大学,理工学キャンパス(Universitade Nova de Lisbon,FCT)で研究に取り組みました.ここでは,その研究内容と海外での生活や体験について報告いたします.

リスボン

リスボンはヨーロッパ大陸最西端に位置するポルトガルの首都であり,市域面積約85平方km,約240万人が暮らす のどかな雰囲気が印象的な都市です.ヨーロッパの都市の中でも比較的治安がよく,また物価も安いため観光客に人気です.リスボン中心地は丘の上にあり,坂が多く歩くのが大変ですが,離れた場所からのリスボンの街並みは家々のオレンジ色の屋根が映えてとても美しいです.気候は日本と似ていますが,秋冬は比較的暖かくて過ごしやすく11月半ばでもシャツ一枚で過ごしている人もいました.私の滞在した秋季はちょうど梅雨の時期にあたり,天気予報があてにならないほど一日の中で天候がめまぐるしく変化します.

リスボンの街並み(左)とユーラシア大陸最西端ロカ岬(Cabo da Roca)にて(右)

FCT

FCT(Faculdade de Ciencias e Tecnologia)はリスボン新大学(Universitade Nova de Lisbon)の9つある学部の一つである理工学部で,物理学科,化学科,情報学科,電気電子学科など14のコースからなります.FCTだけで一つのキャンパスとなっており,リスボン市街から少し離れた場所にあります.キャンパス内では男子学生と女子学生の数が半々くらいであったため,日本よりも理系女子が多い印象を受けました.またアジア人学生はほとんどおらず,大半がポルトガル人学生で,次いでヨーロッパ諸国の学生,ブラジル人学生でした.

FCT(リスボンノヴァ大学理工学キャンパス)正面

研修内容

私のお世話になったLuis Gomes教授の研究室では,主にペトリネットに関する研究を行っています.ペトリネットとは計算機、ソフトウェア、通信等の同時進行並列処理型システムに対する表現、解析、評価、設計のための手法として利用されている手法で,GUIを用いてペトリネットのモデル図を作成し,コードを自動生成することができる「IOPTツール」を開発し,それを用いてシステム構築に関する研究を行っています.

また近年では,ドローンなどの小型無人機が普及しつつあり,この研究室では新たな研究として脳波から人の出した命令を解析し,ドローンを操縦するといったような生体科学と情報科学を融合した研究にも着手しています.そのような研究の一環としてGPSセンサ,風向センサ,方位センサの3つのインプットとセール(帆)とラダー(舵)の操作の2つのアウトプット機能を取り付けたArduinoと呼ばれるマイコンボードを搭載した小型ヨットを開発しており,3つのインプット情報のみから帆と舵を操縦し人の手を介さず自動で目的地まで進ませる研究を行っています.私はこのヨット自動操縦のプロジェクトに参加させていただきました.

各種センサを取り付けたArduinoを搭載したヨット
日本でArduinoを扱ったことがなかったため,まず始めに指導担当のドクターの方から与えられたArduinoプログラミングの課題をこなすといった形でArduinoプログラミングの基礎を学び,その次に同様の形式で「IOPTツール」を用いたシステム構築を学びました.その2ステップの後,ヨット自動操縦に関する研究へと移行しました.主にGPSセンサからの情報を解析する部分を担当しました. ヨットがうまく走行しているか確認するために走行中のヨットの状態を見る必要があります.ここでいうヨットの状態には位置情報,ヨットの速度,方位,スタート地点からの移動経路などがあげられます.またヨットを目的地まで操縦させるためには,目的地までの距離や方位を計算し,常に保持しておく必要があります.これまでこのようなヨットの情報を記録するツールはありませんでした.このようなツールを作成することで,後でヨットの動きを見直したり,手法の再検討をしたりするときの手助けになると考えられます. このような背景から,GPSセンサから得られた位置情報から走行中のヨットの情報を出力し,リアルタイムにヨットの状態とゴールまでの情報を確認できるようなツールの実装を行いました. まずヨットが移動している時のGPSセンサから得られた座標(緯度,経度)からヨットの速度と方位をリアルタイムで計算する機能を実装しました.t-1秒に取得された座標を保持しておき,t秒後に取得された座標から移動距離を計算します.移動距離の計算には様々なアルゴリズムがありますが(地球が球体であるため),今回は実装の容易さから球面三角法を利用した”Haversineの定理”を用いました.そしてその移動距離と時間の差から速度と方位が計算されます.
概略図
次に現在の時刻,位置,移動距離,速度,方位を可視化するためにPLX-DAQとういうソフトウェアを用いてArduinoのシリアル通信の出力結果をリアルタイムでExcelに出力できるように実装しました.これによりヨットの移動をリアルタイムでグラフ化して確認でき,その他の情報もひと目でわかるようになりました.また目的地の座標をあらかじめ入力しておくとその目的地までの距離,到着までの時間をリアルタイムに計算できる機能も付け加えました.
以前,ポルトガル人学生が実際にヨットを川辺で走らせる実験を行っていたところ強風に煽られ転覆し貴重なヨットを失うとういうアクシデントがあったため,私の実装したツールを実際にヨットを走らせることによる動作確認はできませんでした.Arduinoを接続したノートPCを持って外を走ったり歩いたりすることで動作確認を行いました.

動作確認の結果
現段階では,GPSセンサ自体による推定誤差を考慮していないためこのツールで出力された移動経路と本当の移動経路とが異なる場合があります.今後その他のセンサ(風向センサ,方位センサ)からの情報を組み合わせて,またはその他のセンサが必要ならヨットに取り付けて推定誤差を縮めていく必要があります.私の今回担当したGPS部分のプロジェクトは今後別のポルトガル人学生に引き継がれ続けられる予定です.自動操縦に向けてはインプット情報を解析し,どのように舵,帆へアウトプットし自動操縦させるかが課題であり,またバッテリーの問題,強風による転覆などのリスクを考えて手法を検討している段階です.

現地での生活

  • 研究室での生活
  • 昼前に研究室に行き,夕方に帰るというスタイルで研究を行っていました.ポルトガルでは研究や仕事,勉強の合間に休憩がてらコーヒーを飲みに行くのが習慣で大学内にあるカフェによく連れて行ってもらいました.10分,20分の休憩と思いきやトークに花が咲き1時間を超えることもしばしば・・・.のんびりとしたポルトガル人の性格を垣間見えたような気がします.
    研究室のデスク
  • 寮での生活
  • 大学すぐ近くの学生寮に滞在させていただきました.そこにはFCTに通う学生が多数住んでおり,ポルトガル人だけでなくブラジル,スペイン,イタリア,デンマーク,トルコ,イランといった様々な国(東アジア圏はいませんでした)からの留学生がいました.初めはグループが出来上がっておりなかなか馴染めませんでしたが,勇気を出して共用スペースに顔を出し,話しかけてみることで徐々にみんなに馴染めるようになっていきました.夜にはみんなで共用スペースで卓球をしたり,TVでサッカーを見たり,ハロウィンの時にはみんなで仮装してパーティに参加したりしました.また調理場が共用なこともあり日本の料理を紹介したり他国の料理を食べさせてもらったりもしました.
  • サッカー
  • ポルトガルでは一日のうちサッカーの話題に触れない日がないくらいとても人気です.友達と会話するときも「あのチームのあの選手が良かった」「あの監督はだめだ」などよくサッカーが話題に上がりました.男子学生はなんらかのフットサルやフットボールのサークルに所属して放課後のプレーを楽しみ,仲間と交流しています.私も研究室のポルトガル人の友人に誘われて週に2回(多い時には週3回)フットサルに参加し同年代だけでなくポルトガル人の社会人の方とも一緒に汗を流し交流を深めました.私もサッカーが趣味なためこの生活はとても自分に合っていました.日本にいる時より身体を動かして健康的な生活を送ることができた気がします.そしてヨーロッパサッカーが好きで,よく知っていたことによりサッカートークで新たな友人と知り合いになり,交流の和を広げることができました.週末には友人とスタジアムへと足を伸ばし,サッカー観戦をしました.
    フットサルサークルでの集合写真(左)とポルトガル屈指の強豪スポルティング・リスボンのホームスタジアムで友人とサッカー観戦(右)

おわりに

初めての海外生活だったこともあり,言葉の面や研究の面,その他様々なことに不安を抱えながらスタートした海外インターンシップでしたが,振り返ってみればとても充実した研究生活を送れたのではないかと思います.日本では生活していては経験できないような貴重な経験をすることができました.得られたこととしては英語,とりわけ英会話の勉強はとても大切だということです.ポルトガル人もそうですがその他の国々の学生も流暢な英語でトークし,なかなかみんなの会話の和に加われず悔しい思いをしたこともありました.
最後に,今回の海外インターンシップに際してインターンシップを受け入れてくださったLuis Gomes教授,指導をしていただいたドクターのRogerioさん,インターン先を紹介して下さった薦田先生ならびに前川先生,このような貴重な機会を提供して下さった大阪大学,研究室の松下先生,鮫島先生,学生の皆さん,はじめ関係者皆様に心から御礼を申し上げます.