肥後 芳樹

Profile
肥後 芳樹Yoshiki Higo
コンピュータサイエンス専攻 ソフトウェア設計学講座 准教授
研究内容について教えてください。

ソフトウェア工学を研究しています。ソフトウェア工学というのは、品質の良いソフトウェアを効率的に、できるだけコストをかけずに作るための学問です。
たとえば身近なところだとスマホやパソコン、他にも様々な家電の中にもソフトウェアが入っています。社会での需要が大きい分野なので、それを効率的に作るのはとても重要なことです。
いま日本では「2025年の崖」ということが言われています。これは、現在IT人材が不足しており、このままだと社会の需要に対してソフトウェアの供給量がおいつかない状態になる、というものです。それは、毎年12兆円ほどの経済的な損失に繋がるとも予測されています。そうしたIT人材の不足による負の側面を和らげるために、ソフトウェアをなるべく効率的に作れるような技術を生み出そう、というのが私が研究している学問になります。
その中でも私が特に取り組んでいるのが、ソフトウェアのソースコードを対象にした研究です。
ソフトウェアの中でもバグが発生して人間が直さなければいけないところを、機械が自動的に直すことができれば人の手は少なくて済みます。ソフトウェアの自動プログラム修正、のようなことを研究しています。今では、1行や2行のバグであれば直すことができるようになってきています。
ソフトウェア工学の中でもホットトピックの一つで、GoogleやMSのような企業でも研究されているようです。
ここの研究室では学生を育ててくれる雰囲気がとてもあると思いますが、先生として学生指導では何か工夫されていますか。

学生たちはみんな問題解決能力がとても高いので、僕は最初の課題を決めたら、詳細はあまり深く言わないんです。進捗は1週間に1回報告してもらうのですが、具体的な方法は彼らが自分で考えてやってくれます。なので僕はあまり研究手法や手順を詳しく指導しないようにしています。
最初の課題を立てる方法は、大きく分けて二つの柱があります。論文から見つけるか、共同研究で相手の企業が何を解決したいかを聞いて、課題を見つけるか。
論文には、やはり研究のトレンドのようなものがあるんですね。自動プログラム修正なら、最近どんな論文が発表されたかなどは把握しておいて、いまどんな研究が求められているかを把握・分析します。トレンドを把握しておかないと、次の研究テーマを決めるのは難しい。
研究テーマを決める手法のもう一つは、テーマそのものが社会のニーズに近いので、そういうところからのニーズをうまくくみ上げることですね。この研究室では、現在、共同研究を複数行っているのですが、それもニーズ志向型の研究になっていくと思います。

研究以外の指導では、ここ数年は対外的に国際会議で発表したり、論文を出したりするような、外部に向けて発信する取り組みを学生にも促すようになってきています。特に国際会議は、学生にとっても良い刺激になるかなと思っています。「英語で発表しよう」って言うと最初は大体「うっ」ってなるんですけど、まあためになるから、と説得して。学生のあいだにそういうことをやっておくと、社会に出る前に度胸がつくかなと思っています。

うちの研究生でいい流れができているなと思うのは、ここ数年はほぼすべての学生が海外で発表しているんですよね。そうした流れができているので、新しく配属された学生も、英語で発表するのは特別なことじゃなくて、みんながしている普通のことなんだと思ってくれているんじゃないかと思います。
卒論を書くときも、修士の学生から添削してもらうこともあるので、研究室内での縦のつながりもできますね。学生間で情報共有もしますし、先輩が後輩を自主的に面倒をみてくれていたりもしますし。そうした中で、英語で学会発表することや論文を出すことが普通のことになっていってくれれば嬉しいです。
コロナ禍の前までは、多い学生だと修士卒業するまでに3回は海外で発表していました。学部4年生から発表に行っているので、年に1回のペースです。

学生の時に取り組んだ研究の内容そのものが、就職して必ず活かせるかというと、そうではないことも多くあります。会社に入って違う仕事をする学生もいると思います。けれども学生の間に取り組んだ、研究に熱心に取り組む工程には、調べ物や発表や文章を書くといった作業が多い。そうした経験を通じて学生の能力が高まっていくと思うんです。この研究科で能力を高めてもらって、仕事に生かしてもらって活躍してもらう、というのがいい流れかなと思っています。研究の内容そのものはあまり役に立たないかもしれないけど、自分が熱意を持って取り組める研究をやるのがとても大事かなと思います。やっぱり努力より夢中になれることは大事ですから。

Fさん 共同研究で大学外の人と一緒に研究をするのは、プレッシャーもありますが、しっかり取り組めば逆に自信にもなると思います。個人でやるのとは勝手も違いますし、打ち合わせごとにここまで進みました、といった進捗を発表することが当たり前の雰囲気もあります。それは一人でやるよりはシビアなのですが、やる気は出ると思います。
社会人ドクター、というのが言われるようになってきましたが、先生はどうお考えですか。

帰ってきてもらえるなら僕はいつでもウェルカムです。現時点でも何人かは社会人ドクターで帰ってきてくれていますし。ただ、就職してすぐに社会人ドクターになる、というケースは今はあまりないですね。今研究室に所属している人は、5年から8年ほど働いてからドクターとして来ています。ただ、学生が就職していく企業の中にはドクターを増やしていく戦略を立てている企業もあります。
僕については修士だった当時、ドクターに進むのが各学年に3人以上いたような環境だったので、あまり迷わずドクターに行ってしまった状態なのですが、就職した学生もドクターに戻ってきてくれたらとても嬉しいです。
研究中のリフレッシュ方法はありますか。

休みと研究の境目があまりないかな、というのはあります。パソコンがあれば家でも作業ができてしまうのですが、家ではあまり作業しないようにしています。最近は子供とオンラインゲームをするのも、リフレッシュになっていますね。あとは運動不足にならないように、3日に一度、10㎞くらいを走っています。ほどよい疲れが出るのでリフレッシュしてますね。あとはラーメンかな。コロナ禍の前は、研究室の皆でラーメンに行ったりもしていました。研究によっては,評価の段階で被験者実験を行うこともあるのですが、その場合は被験者として研究室の学生に手伝ってもらうこともあります。その後に皆でラーメンに行くこともありますね。普段の研究中だと、夕方にしゃべるのもリフレッシュになりますね。集中力が切れ始める夕方に学生室に行って、談話スペースで学生としゃべって一息ついたりしています。
これから研究科を目指す学生に向けて、メッセージをお願いします。
興味のある研究に取り組んでください。研究する過程が自分の能力の向上にむすびつくことを意識してほしいと思ってます。そうすれば研究生活を頑張る力になると思います。
自分の興味に従うというのは、すなわち、偏差値だけで選ばない、ということでもあります。夏休みなどのオープンキャンパスに行って、自分の志望する研究科や学部が自分と肌が合うか、相性がよさそうか、を見るのがいいかなと思います。ウェブページなどの人づての情報だけではなくて、実際に行ってみないとわからない感覚はあると思います。実際に足を運んで、その大学が自分に魅力的に映るかを調べてほしい。こういう研究がしたい、という強い気持ちがあれば志望動機につながると思うので、受験も頑張れると思います。大学に合格したあとでその研究室に所属することができれば、夢中になれる研究ができると思いますから、より、研究する過程で自分の能力を高めることができるのではないかなと思います。


Fさん 僕はプログラミングをしたくてこの学部に入りましたが、プログラミング以外にもパスコン、スマホが好きな人は合うと思います。ただしこういう学科でも、最新技術を重点的に研究するのは案外少なく、昔からある理論や技術に触れることのほうが多いです。僕も1年目、2年目のときはなんでこんなのをやるんだ?って思ってたんですけど、時間が経ってくると、そういう部分の知識が新しい研究の土台になっていると気付くようになります。研究以外の部分でも、最新技術に触れる機会が増えてくるんですが、そうした部分の技術を理解するのにも役立ってきます。上澄みだけではない基礎から学べるし、研究でも底力がつきます。

Mさん 高校生、大学生の頃は大学院での研究生活を具体的にイメージできずにいました。でも研究室に入ると皆が当然のように国際会議に行き英語で発表し、企業と共同研究しています。全員が初めから全部できたわけじゃないです。肥後先生には、研究者だけど教育者でもある印象を多く感じています。私はここでの研究を通して英語が上達したし、論文も形にできるようになりました。ここにいたら成長させてもらえる、育ててもらえる、という実感があります。いい研究室です。わたしは楠本研で間違いなかったと思うので、同じように思ってくれる人に入ってもらえたらと思います。
※撮影時のみマスクを外しています。