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研究活動

瀬尾 茂人

Profile

瀬尾 茂人Shigeto Seno

バイオ情報工学専攻 ゲノム情報工学講座 准教授

研究内容について教えてください。

私が研究しているのは、バイオインフォマティクスと呼ばれる分野の研究です。バイオインフォマティクスとは、生命科学のデータを情報科学の方法で解析する時に用いる手法やアルゴリズムといった、新しいものを開発するための研究です。特に注力しているのは、遺伝子発現解析という、遺伝子の発現量を解析する方法です。遺伝子の発現量というのはすごく大きな行列で表記された、スプレッドシートで開くようなテーブルデータになります。行にそれぞれの遺伝子が並び、列の方にはサンプルが沢山並んでいるようなテーブルデータのイメージに近いですね。そういうテーブルデータの中から似たパターンを解析したり、どの因子に注目したらいいかを解析する、という研究になります。

また、同時並行で、細胞画像処理という研究も行っています。これは顕微鏡で撮った細胞の画像を解析することを目的としています。細胞の画像データというのは、人が見ると色々分かるのですが、コンピュータで解析するためには「変数」というものを抽出しないといけません。冒頭にお話しした遺伝子発現解析であれば、初めからスプレッドシートの形式で行と列で分析できるのですが、画像の場合は、この画像はどういう画像かということから様々な特徴の表現を考えるのがスタートになります。いったん特徴量を抽出してしまえば、細胞画像処理も遺伝子発現解析も同じようなプロセスになってきます。つまり、いかに似ているものを探し、違うものを分けるか、という解析を行っていくことになります。

この分野を研究することを決意されるまでの経緯を教えていただけますか。

多くの学生にとって研究を始める最初のきっかけは、大学4年生の頃の研究室選びですよね。私が4年生のときは、ちょうど1999年、2000年。ちょうど、ヒトゲノムが解明された直後のゲノムの黎明期とも言うべき時期で、世界的にもゲノムが注目されていた年でした。

私はもともとSFが好きなのですが、その当時はSFの題材にもゲノムが用いられることが多かったと思います。『パラサイト・イヴ』など、ゲノムを題材にした小説や映画、ゲームが多く発表されました。
そして、当時を表徴する出来事のもう一つが、ITです。私は1997年入学なのですが、高校生の時にWindows95が発表されるなど、パソコンが普及し始めた時代でした。

そんな時期でしたので、大学で勉強するならIT、そして研究をするならやはりIT+ゲノムかなと思ったんですね。こうした背景もあってゲノム情報工学講座に入りました。

学部4年生で松田研究室のゲノム情報工学講座に配属された時に、ちょうど遺伝子発現解析が研究対象として出始めました。ですので、私が学生として始めた最初の研究が、発現解析だったんです。今では見慣れているかもしれませんが、画像の上と横にクラスタリングの木構造が並んでいて、自在に並び替えや整理ができるような「ヒートマップ」という画像解析がありますよね。当時、初めてマイクロアレイでああいった解析と可視化の方法がとられたんです。赤と緑のきれいなパターンが浮かび上がるアイゼン・プロットが綺麗だなとおもったのが、研究を始めるきっかけの一つでした。そこからずっと松田研究室で、発現プロファイリングのクラスタリング、というのを学生時代の6年間(B4~D3)で研究しました。

生涯の研究にする、というのは、その当時はまったく思っていませんでしたね。ただ、学生の皆さんにお聞きしたいのですが、大学で勉強したことって、最先端のことを勉強しているはずなのにまだまだ自分に分からないことが多すぎだな、と、思ったりすることはありませんか。これで卒業したら、あとはずっと仕事だなあ。これで勉強、研究が終わりなんだなあ、と思ったときに、自分が分かってないこと、めっちゃようけ残ってるなあ、みたいな気分が、ちょこっと残ってるんじゃないかなと思うんですね。修士の時の私は、そんな感じでした。せっかく大学で勉強して、分かることも増えたけど、自分が分からんこと多すぎやろ、と。なにより仕事しだしたら、そこはもう知らんままになっていくんやなあ、と思ってしまって。それでドクターに進学しまして、そのあとは運もあって、松田研で研究を続けています。

画像解析の研究を始められたのは、いつごろからですか。

画像解析は、もう10年くらい前ですが、医学部の先生とセミナーでやりとりをした時に、研究してみてはと松田先生を通じて声を掛けてもらいました。ちょうど発現解析の研究が足踏みをしていた時期でもあり、画像解析も面白そうだな、と感じて、新たな分野なので勉強しつつ始めることにしました。今の画像関連の研究は、ディープラーニングなど多様な研究対象があり、どれも深く研究されているので、とても刺激になります。ただ、その分、それを研究している人も非常に多いので、画像解析を専門にして一本で頑張る決心は中々つかないですね。逃げ道を残したまま、浅く広くやっています。

瀬尾先生はとても長い年月を見越して研究をされていると思うのですが、研究のモチベーションみたいなものはありますか。

基本的にあまりモチベーションの高い人間ではなく、周りからのプレッシャーがある方が研究するタイプだと思っています。なので共同研究をかなり多く手掛けています。モチベーションに関わらず仕事ができて他分野の方の解析のお役にも立てますし、先方とのやり取りにより、私のリフレッシュにもなります。いっぱい引き受けすぎてレスポンスが遅くなりがちなのは申し訳ないと思っているのですが。

共同研究は、主に他学部の先生方が持ち掛けてくれる案件を解析するものが多いです。最近ですと、阪大の救急センターの先生とCOVIDがらみのRNA発現解析をしたり、オミックス解析と言って発現データとタンパク質のデータやマイクロRNAのデータを一緒に解析したりしています。他には、京大の先生方と、大豆やトマトなどの食物と脂肪の関係での発現解析をしています。

今は修士の学生さんに手伝ってもらって、薬学部の先生と筋肉の回復についての画像解析をしたり、情報通信研究機構の先生と微生物が沢山映った顕微鏡から自動でその種類を認識する研究をしたりしています。あとは、乳腺外科の先生と研究している、手術中にがんの組織を取りこぼしていないかをチェックするような仕組みの開発もあります。常時、10件から20件くらいの共同研究を同時進行でやっています。研究の進度がばらつきやすいのが申し訳ないのですが、違う研究で得た知見が別の研究のヒントになりそうだ、と思いつくところもあります。
阪大と関わりのある先生方は良い先生が多いですね。自分の研究に信念を持っていて、研究を通じて色々と教えてくれるんです。年を重ねるほど、自分にものを教えてくれる人はどんどん貴重になっていくのですが、そういう意味では大学は面白いですね。専門家が沢山いて、自分の知らない色々なことを教えてもらえる環境だと思います。

瀬尾先生がこれまで研究をされてきて、それがどう社会とつながっていますか、と聞かれたらどう答えますか。研究は、どこまで行ったらゴールになるのでしょうか。

社会とのつながりは、とストレートに聞かれてしまうと答えるのが難しくなりますね。情報科学的に新しい解析の方法を考えても、結局昔ながらのロジスティック回帰でいいかな、と思ってしまうこともあります。実際に、30年・40年前に編み出された方法で9割くらいの精度は出ているわけですから。そんな中で、私にとって、共同研究をして他分野の研究者や企業の方の役に立つ、というのは分かりやすい社会とのつながりだと思っています。そして、自分の研究は自分の研究として、やりたいことをやる。なぜなら、自分が楽しいと思っていないと、学生さんにも研究の楽しさを説明しにくいような気がするからです。

研究のゴールを決めるのは難しいですよね。私は、情報をやろうと思ったきっかけが、人工知能とか自動で何かするみたいなところでした。なので、共同研究で頼まれるような解析を、こっそりと自動でできるような仕組みを作っておいて、寝ている間に終わっているような仕組みを、最終的には作りたいと思っていますね。

研究に行き詰った時に、リフレッシュしたり、乗り切ったりする方法はありますか。

研究のリフレッシュに別の共同研究をするような感じです。色々うまくいかないことがあっても、1つうまくいっていることがあると気が楽です。ストレスをためないようには、できるだけ気を付けてます。
研究に行き詰ったときのリフレッシュ方法ですが、私は学生時代にそれができなかったんですよ。勉強して知識を得たくて進学してきてるのに、学問の全容も分からないうちから自分の研究テーマなんて決められないですよね。これから勉強していくところなのに、何を研究するかを決めなきゃいけないのは本当に難しい。それに、学生さんは研究テーマを決めた後は、なかなか自分ではテーマを変えられないので、ほんまに大変だと思います。できないのにやらなければいけない仕事を、どうにかしなければいけないわけですから。
なので、裏を返せば、やりたいことを見つけるっていうのが本筋なんじゃないかと思います。自分のやりたい研究をすること。もらったデータよりも、自分が本当に解きたい問題をみつけて、それを解く。やらされているんじゃないという体でやる。そうすると、行き詰る状態を迂回できるんです。自分でテーマを決められるようになるから、迂回するっていうのができるようになるので、それが大事なのかなと。でもすごい大変なんですけどね。

あとはよく聞くかもしれませんが、研究室以外での人間のつながりを大事にすること。特に最近はコロナ禍で学生さん同士のコミュニケーションが取れなくなって、いろいろ話してストレス解消するっていうことが難しくなりがちですが、研究室以外でのつながりは大事にしてほしいと思いますね。

研究を続けているとわかってくると思うのですが、基本的に研究はうまくいかないものです。ストレスを軽くする、というのは重要ですが、大前提としてそれなりに時間を使ってやらないとできないものでもある。なので、早寝早起きをちゃんとするのが一番大事です。朝起きて研究して、夜はちゃんと寝る。例えば中学・高校の時の勉強時間くらい、朝9時から夕方5時まで研究している大学生は実は少ないのではないかと思うので、そのくらいやったら色々と成果が出るんじゃないかな、とは思いますね。

これから研究科を目指す学生に向けて、メッセージをお願いします。

うちの研究室のいいところは、バイオっぽいことに興味がある人でも、情報系のことに興味がある人でも、色々と研究テーマがあるところだと思うんですね。結構間口がひろい。それに、バイオインフォマティクスに限らずですが、何かの仕事をするということを考えると、情報科学という自分の専門分野に加えて、プラスアルファで勉強しないといけないことが結構あります。例えば、作る製品に対する詳しい知識であったり、法律やビジネスだったりです。大半の情報科学科の学生にとっては、バイオというのも未知の領域になります。すごい全然わからない、という状態になるんですよね。なので、わからないものをわからないなりに勉強する、という姿勢は身につくと思ってますし、そのことは誰にとっても非常に役に立つと思います。いろんな方に来ていただけると面白いんじゃないかと思っています。

学生さんも、研究でいい成果を出すというよりは、研究を楽しむのが大事なんじゃないかと思うので、いろいろやってみることをおすすめします。研究が楽しいっていうのは一番ですが、研究のほかに楽しいことがあるなら、大学院生の立場や環境の良さ、時間の潤沢さなどを活かしてもらえたらと思います。ただ、研究がうまくいっていると学生生活が楽しくなるというのはあります。スポーツでも音楽でも何でもそうだと思いますが、研究もある程度できるようになってからが楽しいと思います。勉強して研究すると楽しいよ、ということを伝えたいです。

学生さんより

Iさん この研究室の特徴は、第一に自由だということ、そして、やりたいことができる、ということです。自分が研究室を選ぶときに重視したところですが、入ってからもそれを実感しています。質問をしに行くと待っていてくれて、聞いたら助けてくれる。研究しろという圧力はないので、学生の間にやりたいことに集中することもできます。

研究に集中したくなったら、集中できるように手を貸してくれる、そういう配分ができるのがいいところだなと思います。

Wさん 一人一人にあわせて指導してくれて、学生の人となりをみながらサポートしてくれているな、と感じることが多いです。どんな学生さんが入っても、その人に合ったサポートをしてくれそうだなと思います。自分としてはそれが最初から感じられたので、ありがたいです。女性にも入ってくれたらうれしいです。

女子学生が少ないぶん、まとまってしまってる感じは少しありますが、学生生活を送る中で、悩んだことはなく、気にせず生活できています。

※撮影時のみマスクを外しています。