在学生の方へ講義・履修高度教育活動教育の国際化2022年度リスト

2022年度(令和4年度)の海外インターンシップ

岩渕 厚樹

派遣先:IMEC (Interuniversity Micro Electronics Centre), Belgium Leuven

派遣期間:2022年10月2日〜2022年12月16日

はじめに

2022年10月2日から2022年12月16日までの約2ヶ月半,ベルギーのゲンクにあるEnergyVilleという研究機関にてimec(Interuniversity Micro-Electronics Centre)のPV(太陽光発電)チームにおいて共同研究を行いました. 研究内容と現地での生活について報告します.

リンブルフ州

ゲンクが属するリンブルフ州はベルギーの首都ブリュッセルから東へ電車で1時間ほどに位置しています. ベルギーは歴史的な経緯により地域によって公用語が異なっており,南部のワロン地方はフランス語圏,北部のフランデレン地方はオランダ語圏となっています. ゲンクのあるリンブルフ州はフランデレン地方に属しているため,街中で見かける言葉や標識のほとんどがオランダ語ですが,電車で30分ほど移動しただけで見聞きする言葉がフランス語に変わります. また,ゲンクは100年ほど前に炭鉱業で栄え,出稼ぎのために様々な国から移民がやってきたという経緯があります. そのため廃鉱となった今でも,ギリシャやイタリアやトルコなどの国にルーツを持つ人々が多く暮らしており,街中ではそれらの言語を耳にする機会も多くありました. 私が住んでいたのは, リンブルフ州の州都であるハッセルトという街で, この街は兵庫県の伊丹市と姉妹都市であり, 近所にはヨーロッパ最大の日本庭園もありました. このように,色々な意味で言語や国籍の垣根がない環境で生活することができました. また,街中には飲食店やブティックが多い一方で、周囲は自然が豊かで穏やかな時間が流れており,非常に居心地が良い街だと感じました.

フランス語とオランダ語で表記されたブリュッセル中央駅

EnergyVille

EnergyVilleは次世代エネルギー技術に関する総合的な研究所です. ベルギーのフランデレン地方でエネルギー関連の研究を行う4つの研究機関(imec,KU Leuven,VITO,UHasselt)による共同の研究所です. テーマとしては蓄電池や太陽光発電の開発のようなデバイスレベルから,エネルギー政策や電気料金制度などの施策レベルまで非常に多岐に渡る研究が行われており,研究開発のための設備も非常に整っています. オフィスには各機関からやってきた修士や博士の学生と研究員の方が多く在籍しており,ベルギー以外の国が出身の人も多くため,オフィス内では日常会話から議論まですべて英語で行われていました.

EnergyVille正面

研修内容

私はEnergyVilleにおいて,imecのPV(太陽光発電)チームの一員として, PV冷却を考慮したエネルギーマネジメントについての共同研究を行いました.

EnergVilleでは次世代エネルギー技術について,デバイス自体の開発だけでなく,それらの数学的モデルに関する研究も盛んに行われています. 例えば,蓄電池の挙動を再現するモデルやPV(太陽光発電)パネルの発電量予測モデルや温度モデルなどがあり、これらのモデルを利用し,システムの制御決定の際に未来の情報やシステムの挙動予測を考慮に入れる事で,より効果的なシステムの制御などが行えるようになると考えられます. しかし,PVの冷却設備に関する研究はあまりない他, 各モデルはあくまで個別に研究されており、各要素技術を統合した次世代電力システム全体に対する運用計画のアプローチはあまり行われていません.

また,私は大阪大学で次世代電力システムの一種として,次世代スマートビルにおけるシステム制御最適化手法に関する研究を行うグループに所属しています.次世代スマートビルとは,PVパネルや蓄電池を備え,すべてのデバイスを統一的に管理,制御することで,従来の電力網に頼らずにエネルギー的に自立することを目指した建物です.各デバイスやシステムにおける電気エネルギーの流れを数式によりモデル化し,最適化問題として解くことで電気料金や太陽光発電による電力の無駄を最小化するようなシステムの運用方法(空調の運転や蓄電池の充放電スケジュール等)を解として,事前に求めることができます.また, その中で空調による冷却設備に関する知識も扱います.

このような背景から,本インターンでは,私が所属している大阪大学の研究グループが研究している最適化手法や冷却に関する知識と,EnergyVilleで研究されている各予測モデルを統合することで,PV冷却を考慮したエネルギーの効率的な利用を実現するための最適化フレームワークの実現を目指して共同研究しました.

取り組んだ内容としては, はじめに, 下図に示すようなシステムモデルを想定してこれまで我々の研究グループで研究していた最適化フレームワークに, imecによるPVモデルを組み込みました. このフレームワークでは, 日中のPV発電量が変動する時間において, PV発電量モデル, PVパネルの温度モデル, 気温や日射量データ, PVの冷却器モデル, 蓄電池モデルを利用して, 各設備の運転スケジュールの最適化を行います. この最適化では, 短時間でのグリッドへの供給電力の変化率 (ランプレート) を最小化することを目的に, 冷却器, 蓄電池, そしてグリッドへの電力供給計画を決定します. そしてそれをスマートPVシステムに適用させた結果を各モデルに反映させ, 再び最適化計算を行います.

次に,このフレームワークを用いて, 大規模PVプラントを想定したシミュレーションを行いました. このシミュレーションでは, これまでのエネルギーマネジメントシステムに関する研究と同様にPVパネル冷却器を考慮しない場合と, 提案フレームワークである, PVパネル冷却器も考慮してエネルギーマネジメントを行う場合でランプレートにどのような違いがあるかを評価しました. シミュレーションの結果, 提案手法であるPVパネル冷却ありの場合では, 冷却なしの場合に比べて最大ランプレートを66.5%削減することに成功しました. これより, ランプレートを抑えるために, PVパネル冷却を考慮したエネルギーマネジメントを行う提案フレームワークの有効性が示すことができました.

今後は,負荷も含んだマイクログリッドを想定してシミュレーションを行い, 提案フレームワークの有効性を示し,今回の成果を国際会議に投稿する予定です. また,PV冷却モデルをより現実的なモデルに近づけていくことで,最適化フレームワークの更なる拡張を行っていこうと考えております.

対象とするシステムモデル

オフィス

おわりに

今回のインターンシップを通じて,英語によるコミュニケーションの重要性や研究内容に関する知識だけでなく,日本とは異なる価値観や考え方など,非常に多くのことを学ぶことができました. 期間は約2か月半と短かったですが、今後の自分の進路に大きな影響を与える貴重な経験になりました.

最後に,今回の海外インターンシップに際して,渡航先として快く受け入れてくださったimecのFrancky Catthoor教授,現地にて面倒を見て頂いたApostolosさんをはじめとするPVチームの皆様,共同研究の打ち合わせやインターン先のご紹介など全体を通してお世話になった谷口先生ならびに尾上先生,またこのような貴重な機会を提供していただいた大阪大学情報科学研究科,KU Leuven, imec, EnergyVilleの関係者皆様に深く感謝を申し上げます.

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