在学生の方へ講義・履修高度教育活動教育の国際化2024年度リスト

2024年度(令和6年度)の海外インターンシップ

岡澤 一希[修士2年]

滞在先:リアム LIRMM, FRANCE MONTPELLIER

渡航期間:2024年9月29日~2024年12月1日

はじめに

私は2024年9月29日から12月1日までの約2カ月間、フランスのモンペリエにあるLIRMM (Laboratory of Computer Science、 Robotics and Microelectronics of Montpellier)と呼ばれる研究所で、Abdoulaye Gamatie教授のもとで研究を行いました。研究内容とそこでの生活について説明します。

モンペリエ

モンペリエはフランスの南の地中海沿岸に位置する都市で、中世からの学園都市でもある都市です。公用語はフランス語が用いられており、普段の生活やレストランなどでも基本フランス語が使用されています。また、フランスの人々はあまり英語が堪能ではなく、英語が話せる人と話せない人の割合は体感では半々くらいに感じました。モンペリエの中心街であるComedieの街並みは、白を基調とした古くからある伝統的な街並みで、歴史ある教会や噴水、パリのものとは少しサイズが小さいですが、凱旋門があったりなどします。私が通っていたLIRMMはOccitaniと呼ばれる場所に位置しており、中心街からTramと呼ばれる路面電車で30分ほど移動したところにあります。ここはまた中心街とは雰囲気が異なり、モンペリエ大学をはじめとして様々な研究所が集まっている場所です。モンペリエは全体的にとても治安が良く、夜中でも路地裏でたくさんの人がテラスでお酒を飲んでいる風景が見られました。フランスといえば、フランス料理が思い浮かばれますが、基本的にモンペリエの中心街にあるレストランは、イタリアやタイ、日本料理などのようなレストランばかりで、フランス料理は高級料理店、または家庭料理として楽しまれるようです。

モンペリエ大聖堂

Comedie広場

LIRMM

LIRMMは、モンペリエ大学とフランス国立科学研究センター(CNRS)が共同で発足した歴史ある研究所です。分野としては、情報システムはもちろん、ロボットから半導体まで様々な分野について研究が行われています。研究室内の学生やスタッフは、フランスやアフリカ系、ドイツなど様々な国の人が居ましたが、基本的にフランス語で会話していました。また、LIRMMには在籍しているスタッフの数がとても多く、学生、教授に加えて、エンジニアやポスドクまで幅広い職種の人が働いていました。そのため、滞在中は様々なエンジニアの仕事・研究内容を聞いたり、逆に相談に乗ってもらったりと色々な話を聞くことができました。

LIRMM

研究所内の様子

研究内容

私は、LIRMMでAbdoulaye Gamatie教授のもとで、データセンターにおけるエネルギーと仮想マシン (VM) の協調最適化をテーマに研究を行っていました。

これまで、データセンターにおけるエネルギー消費削減に向けて、VMの割り当て最適化については様々な研究がなされてきました。従来の手法では、データセンターを集約化し、別のエネルギー源から再生可能エネルギーや石炭や石油から発電されたBrown energyをデータセンターへ供給し、データセンターを稼働させていました。また、他のサーバーはこの集約化されたデータセンターと通信を行います。最適化を行う過程では、この通信されたデータをデータセンター内のどのサーバーへ割り当てるのかの最適化を、エネルギー消費を最小化するために行います。しかし、これではVMの割り当てのみでエネルギー消費削減は限定的であることから、先行研究ではデータセンターをミニデータセンターに分け、それぞれのミニデータセンターに、太陽光パネルとバッテリーを設置するようなシステムが提案されました。このシステムの新しい点は、互いのミニデータセンターがVMの移動だけでなく、エネルギーの移動も可能なことです。このシステムを数理モデルで最適化することで、より大きなエネルギー消費削減を達成することができました。この数理モデルによる最適化は、非常に複雑であり、5つのミニデータセンターに対する最適化で6時間ほどかかってしまい、システムの拡張性の点で問題がありました。そこで、私の滞在中の目標として、この最適化方法を改良することでエネルギー効率を保ちつつ、計算量を小さくし、より大規模なシステムも最適化できるようにすることでした。

LIRMMのAbdoulaye Gamatie教授は上記のようなミニデータセンターにおけるエネルギーマネジメントに向けた、エネルギーとVMの移動の最適化や、移動方法のモデル化などの研究を行っていました。一方、私も大阪大学で次世代のスマートビルに向けた、建物のエネルギーマネジメントに関する研究を行うグループに所属しており、私も建物のエネルギーマネジメントに関する研究を行っていました。そこで、谷口先生からの紹介でAbdoulaye Gamatie教授の研究に、我々のエネルギーマネジメントに関する知識が活かせるのでは、という考えからこの共同研究が始まりました。滞在中の目的としては、主にAbdoulaye Gamatie教授と直接やり取りをすることで、より研究を加速させることを目的として、渡航することを決意しました。

滞在中、議論していく中でVMの移動に関する計算コストが大きいことが分かりました。また、単純にVMの移動とエネルギーの移動を分けて数理モデルで最適化しても、ミニデータセンターの数が増えると指数関数的に計算量が上昇してしまうという問題がありました。そこで、VMの移動に関しては新たに貪欲法ベースのアルゴリズムを新たに考案しました。このアルゴリズムでは、VMを移動させる際に、移動先のサーバーの設備の大きさ、そしてVMが将来どのような負荷があるのかを考慮することで、効率よくVMを移動させます。このアルゴリズムを従来のシステムの最適化へ適用することで、数理モデルにより最適化した場合と比較して、エネルギー効率を損なうことなく、計算コストを99。6%削減することに成功しました。また、拡張性評価の実験では、従来のシステムモデルの18倍のミニデータセンターの数である90個のデータセンターに対して最適化を行っても、ヤク20分ほどで解を求めることが可能であることを示しました。また、今回の成果は滞在中にDAC (Design Automation Conference) とよばれる国際会議に投稿することができました。

今後は、限られた地域内だけでなく、世界各地のミニデータセンターでやり取りができるようなシステムを考え、その中で最適なVMの移動、エネルギーの移動の最適化を行っていきたいと考えています。また、そのシステムの中で今回提案したアルゴリズムを適用、改良し、さらなるエネルギー消費削減に貢献していきたいと考えています。

分散型ミニデータセンターのイメージ図

提案したアルゴリズムの流れ

終わりに

今回のインターンシップを通して、研究だけでなく、普段の生活における、家探しから銀行口座、公共交通機関、入館の手続きなど他の国で生きていくうえで必要不可欠な経験をたくさんすることができました。また、同時に英語のスキルも向上できたと思います。この記事を読んでいる人は、きっと海外に興味があるけどあと一歩踏み出せない人だと思います。そういう人は、取り敢えず行ってから考えるとよいと思います。海外で自分の力で生き、色々な文化を体験することは自分の視野を広げる大きなきっかけになると思います。自分も、フランス語は一切しゃべれませんでしたが、なんとかなったので、言語スキルについては行ってから考えればよいと思います。

最後に、今回の海外インターンシップに際し、受け入れを快諾してくださったLIRMMのAbdoulaye Gamatie教授とDavid Novo教授、現地で色々な面で面倒を見ていただいたIsmayelさん、MohamedさんをはじめとするLIRMMの皆様に深く感謝申し上げます。また、普段の研究やインターンシップ先のご紹介など今回のインターンシップ全体を通してお世話になった谷口先生ならびに、尾上先生、またこのような貴重な機会を提供いただいた大阪大学大学院情報科学研究科、LIRMMの関係者皆様に深く感謝を申し上げます。

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