光永 周平[修士1年]
●滞在先:アテネ工科大学 NTUA (National Technical University of Athens), GREECE ATHENS
●渡航期間:2024年10月1日~2024年11月30日
はじめに
2024年10月1日から2024年11月30日までの約2か月間、ギリシャ・アテネにあるNTUA (National Technical University of Athens) のエネルギーマネジメントチームにおいて共同研究を行いました。研究内容と現地での生活について説明します。
アテネ
アテネは、ギリシャの首都であり、古代文明の中心地として知られる都市です。その中に位置するNTUA (アテネ国立工科大学) は、ギリシャ国内でもトップクラスの教育機関として高い評価を受けており、学問の追求と文化的な体験の両方を提供してくれる場でした。滞在中には、アクロポリスやパルテノン神殿といった歴史的建造物を訪れ、その荘厳さと古代ギリシャの美学に深く感銘を受けました。これらの遺跡は、歴史だけでなく、現在のギリシャ文化の基盤を感じさせるものであり、訪れるたびに新たな発見がありました。
日常生活では、ゾグラフォウ地区にあるNTUAの学生寮で過ごしました。このエリアは学生が多く住む穏やかな住宅街で、カフェや地元の食料品店が点在しており、生活の利便性が高い一方で静かに過ごせる環境でした。近隣の公園や散策コースを歩きながら、ギリシャの日差しと自然を楽しむこともできました。
休日には地下鉄を利用してアテネ市内を観光し、シンタグマ広場やモナスティラキ市場などを巡りました。これらの場所では、現代的な都市文化と古代の歴史が見事に融合しており、ギリシャの多様性を感じられました。また、地元のレストランやカフェでは、ギリシャ料理の豊かな味わいを楽しむことができました。ムサカやギロス、フレッシュな野菜を使ったサラダなど、どれも新鮮で風味豊かで、食文化を通じてギリシャの人々の温かさに触れることができました。さらに、現地で出会った友人たちとの交流も、滞在の大きなハイライトとなりました。彼らと一緒に食事をしたり、深夜まで語り合ったりする中で、ギリシャの生活習慣や価値観に触れることができただけでなく、異なる文化を持つ人々と意見を交換する楽しさを再確認しました。特に、ギリシャの人々の家族を大切にする姿勢や、日々の生活を楽しむ心の余裕に感銘を受けました。

パルテノン神殿

シンタグマ広場
NTUA
NTUAはギリシャで最も権威のある大学の一つで、私が所属した研究室は主にエネルギーマネジメントに関する研究を行っています。ほとんどの学生がギリシャ出身で、日常会話はギリシャ語が主でしたが、研究や議論は英語で行われ、特にコミュニケーションに支障はありませんでした。現地ではギリシャの学生とも交流を深め、グローバルな視点を学びました。

Electrical and Computer Engineering棟

研究室
研修内容
私はNTUAにおいて、エネルギーマネジメントチームの一員として、研究テーマである「PV予測モデルを用いたマルチタイムスケールEMSフレームワークの構築」について研究を行いました。本研究では、再生可能エネルギーの中でも注目度が高い太陽光発電 (PV) の発電量変動に対応するため、各機器の特性に応じた時間粒度でエネルギーを最適化するシステムを設計しました。PV発電量は天候や時間帯によって大きく変動するため、需要と供給のバランスを効率的に調整するエネルギーマネジメントシステム (EMS) の導入が必要です。しかし、EMSのリアルタイム処理には膨大な計算資源が必要であり、計算負荷を削減しつつ実用性を確保するためには、より柔軟な管理手法が求められます。この課題に対処するため、システム全体を長期 (15分粒度、24時間計画) と中期 (5分粒度、15分計画) 短期 (1秒粒度、5分計画) の3層構造に分けるマルチタイムスケールEMSを採用しました。
このフレームワークの構築においては、天気予報データや過去のPV発電データを基に将来の発電量を高精度に予測するPV予測モデルを統合しました。このモデルを利用することで、リアルタイムのエネルギー最適化に必要な情報を迅速に取得できる仕組みを実現しています。さらに、現在のオフライン処理をオンライン処理へ移行することを視野に入れ、従来のオフライン最適化結果とオンライン処理結果が一致するよう設計を工夫しました。この取り組みでは、長期的な運用計画に基づいてエネルギー利用方針を策定し、短期的な需要調整をリアルタイムで行うことで、計算負荷を抑えながら高い最適化精度を維持する仕組みを実現しています。

マルチタイムスケールEMSフレームワークの図
研究の実証段階では、PV予測モデルを統合したフレームワークを用いてシミュレーションを実施しました。その結果、従来のオフライン処理と遜色ない性能を達成し、エネルギーコストの削減やPV発電の利用効率向上が確認されました。具体的には、購入電力の削減や廃棄電力の抑制といった成果が得られ、新しい予測手法の有効性が示されました。さらに、ギリシャのNTUAでの研究インターンシップでは、自身が大阪で開発したフレームワークをNTUAの研究チームと共有し、互いの手法を比較しながら議論を重ねました。この交流を通じて、異なる視点からのフィードバックを受け、多様なアプローチの重要性を実感しました。
シミュレーションを通じた評価では、10日間のデータを用いて中期PV予測モデルがエネルギー管理に与える影響を検証しました。結果として、短期的な予測精度の向上が最適化の有効性に寄与し、オンライン処理の実現に向けた基盤が確立されました。現地の研究者との議論では、予測モデルと最適化フレームワークのさらなる統合や、大規模システムへの適用可能性についても検討を行い、今後の研究方向性を明確にしました。この研究を通じて、多様な視点から問題を捉え、課題に柔軟に対応する力を身につけることができました。また、英語での議論を通じてコミュニケーションスキルが向上し、国際的な場で成果を発表する自信も得られました。今後は、リアルタイム最適化を支えるオンラインEMSの実装に向けて、さらなる予測モデルの精度向上とシステム全体のスケーラビリティ検証に取り組みたいと考えています。
おわりに
このインターンシップでは、英語を使いながら新しい研究手法を学び、多様な文化を経験する貴重な時間を過ごすことができました。また、現地の研究チームとの共同作業を通じて、国際的な研究活動の意義と可能性を実感しました。このような経験は、今後の研究活動やキャリア形成において大きな糧となると思います。
最後に、今回の海外インターンシップに際し、快く受け入れてくださったNTUAのDimitrios Soudris教授とPavlos Georgilakis教授、現地にて面倒を見て頂いたMarkosさんをはじめとするエネルギーマネジメントチームの皆様、共同研究の打ち合わせやインターン先のご紹介など全体を通してお世話になった谷口先生ならびに尾上先生とFrancky Catthoor教授、またこのような貴重な機会を提供していただいた大阪大学情報科学研究科、NTUA、AUTH、imecの関係者皆様に深く感謝を申し上げます。