山崎 碧士[修士1年]
情報科学研究科 情報数理学専攻 森田研究室
●滞在先:ベルリン・コンラートツーゼ情報技術センター (ZUSE Institute Berlin), Berlin, Germany
●渡航期間:2025年8月16日~2025年10月13日
はじめに
2025年8月16日から10月13日までの約2ヶ月間、ドイツのベルリンにある ZIB (Zuse Institute Berlin) のIOL (Interactive Optimization and Learning) の下で研究を行いました。研究内容と現地の生活について紹介します。
ベルリン
ベルリンはドイツの首都であり、政治機能が集約された都市であると同時に、世界有数の芸術都市です。ベルリン・フィルハーモニーやドイツ・オペラといった世界最高峰の芸術拠点が市民の生活に溶け込んでおり、学生でも気軽に鑑賞できる環境が整っています。街を歩けば、大聖堂や美術館など歴史の重みを感じさせる建築物が至る所にあり、都市そのものが一つの芸術作品のようです。

ベルリンフィルハーモニー

ドイツオペラ
また、ベルリンは非常に国際色豊かな都市でもあります。多国籍な人々が暮らしており、街中ではドイツ語だけでなく様々な言語が飛び交っています。多様なバックグラウンドを持つ人々を受け入れる土壌があり、食事に関しても、伝統的なドイツ料理だけでなく、世界各国の本格的な料理を楽しむことができます。
気候は、日本と同様に四季を楽しむことができます。緯度が高いため冬の寒さは厳しいですが、家の壁や窓が非常に厚く気密性が高いため、室内では外気の影響を受けにくく、特別な暖房設備がなくとも暖かく快適に過ごすことができました。一方で、夏は湿度が低くカラッとしており、夜9時過ぎまで明るいため、非常に過ごしやすい季節です。
また、週末には街角で路上演奏が行われています。忙しなく通り過ぎるのではなく、多くの人が足を止めて聴き入り、見知らぬ人同士が音楽を通じて交流する温かい光景が日常的に見られます。
ZIBについて
Zuse Institute Berlin (ZIB) は、応用数学やデータ集約型計算を専門とする学際的な研究機関です。大学とは異なり、純粋な学術研究から産業応用まで幅広いプロジェクトが進行しています。研究所はベルリン郊外の落ち着いたエリアに位置しており、すぐそばには植物園があるなど、豊かな自然に囲まれた非常に恵まれた環境にあります。都会の喧騒から離れた静寂の中で、落ち着いて研究に取り組むことができる理想的な場所でした。

Zuse Institute Berlin

研究室
研究内容について
ZIBのIOLに所属し、Research Area LeadであるGioni Mexiさんのご指導のもと「優先順位付き動的フローゲームにおけるナッシュ均衡の導出」に取り組みました。
本研究は、グラフ理論およびアルゴリズム的ゲーム理論の枠組みにおいて、複雑な制約条件下での均衡解の存在と性質を解明することを主眼とした理論研究です。 研究の出発点として、現実社会の交通ネットワークに見られる「優先順位(緊急車両や公共交通機関など)」に着目しました。これまでの標準的な動的フロー理論では、全てのプレイヤーが対等であると仮定されることが一般的でしたが、現実には明確な階層構造が存在します。 本研究では、こうした現実の事象を数理的な「優先順位付き動的フローゲーム」として抽象化しました。各エージェントが「自身の目的地への到達時間を最小化する」という利己的な戦略をとる中で、優先順位という厳格なルールが課された場合、システム全体がどのような安定状態(ナッシュ均衡)に収束するのか、その数理的なメカニズムを検証しました。
この問題における最大の理論的課題は、プレイヤーごとに目的地が異なる(多品種流)条件下で、エージェント間の干渉をどう記述するかという点です。 私はこの課題に対し、ゲーム理論的なアプローチを用いて、システム全体の最適化と個人の最適化を交互に行う反復アルゴリズムを新たに構築しました。具体的には、システム全体の総移動時間を最小化する解を提示する「提案役(Candidate Proposer)」と、その提案に対して「自分ならもっと早く着ける」という利己的な逸脱経路を探す「検証役(Selfish Optimizer)」を相互作用させるフレームワークです。
定式化には混合整数計画法(MIP)を採用しました。ここでは、道路容量やフロー保存則といった物理的な制約に加え、「優先順位が高い車両がいる場合、低い車両は待機しなければならない」「同順位なら先着順(FIFO)」といった、本来数式で表しにくい離散的な社会ルールを、論理制約を用いて厳密に数理モデルへと落とし込みました。
実験では、数理最適化ソルバーSCIPを用い、Python環境下でシミュレーションを行いました。 その結果、数理的に扱いが難しいとされる「各プレイヤーが異なる目的地を持つ」複雑なネットワークにおいても、提案したアルゴリズムが理論的に正しいナッシュ均衡解へと正確に収束することを実証しました。 これは、優先順位付きモデルにおける均衡解の構成的証明とも言える成果です。一方で、MIPを用いた厳密解法は計算複雑性が高く、ネットワーク規模に応じた計算コストの増大という課題も確認されました。今後は、この理論モデルをより大規模なグラフへ適用するための近似解法の探求などが、次なる研究課題として挙げられます。
文化的な気づき
ドイツ独自の「休息」に対する価値観について述べさせていただきます。 ドイツには「休日法」があり、日曜日は飲食店を除くほとんどの店舗が閉まります。当初は不便さを感じましたが、これは人々が家族との時間や休息を最優先するための社会的な合意であると気づきました。
ある日曜日、アパートの中庭で住人が主催するピクニックに参加しました。各々が自国の料理を持ち寄り、食事の後は卓球をしたり、ギターに合わせて合唱したりして過ごしました。私を含め初めて参加する人もいましたが、国籍や文化の壁を超えてその空間を楽しむ、日本では味わえない温かな雰囲気に包まれていました。 効率や利便性を追求するだけでなく、あえて社会全体で立ち止まり、コミュニティとの繋がりや心の豊かさを大切にするドイツの文化は、私にとって大きな学びとなりました。
おわりに
本インターンシップのきっかけを与えてくださり、Gioni Mexi様へのお引き合わせをはじめとする多大なるご配慮をいただきました品野勇治様に深く感謝いたします。 また、現地にてResearch Area Leadとして、熱心にご指導くださったGioni Mexi様に心より御礼申し上げます。
本研究留学をご快諾いただいた森田先生、山口先生ならびにCRONOSの泉先生には、渡航の実現に向け多大なるご尽力を賜りました。なお、本渡航は大阪大学大学院情報科学研究科およびCRONOSからの資金的ご支援により実現いたしました。ご支援くださったすべての皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。