在学生の方へ講義・履修高度教育活動教育の国際化2025年度リスト

2025年度(令和7年度)の海外インターンシップ

馬場 元[修士1年]
情報科学研究科 情報数理学専攻 鈴木研究室

滞在先:カタルーニャ工科大学 (Universitat Politècnica de Catalunya), Barcelona, Spain

渡航期間:2025年10月1日~2025年12月28日

はじめに

私は2025年10月1日から12月28日までの約3カ月間、スペインのバルセロナにあるカタルーニャ工科大学(UPC:Universitat Politècnica de Catalunya)にて、Antoni Guillamon Grabolosa教授のもとで共同研究を行いました。研究内容と、現地での生活についてご紹介します。

バルセロナ

スペイン北東部に位置するカタルーニャ州の州都バルセロナは、地中海に面した港湾都市として古くから発展を遂げてきました。その歴史はローマ時代にまで遡り、現在も市街中心部のゴシック地区には中世の面影を残す重厚な石造りの建築群が保存されています。19世紀後半には、都市計画家イルデフォンス・セルダによる「アシャンプラ(拡張地区)」の整備が行われました。この地区は、八角形の街区が規則正しく並ぶグリッド状の都市構造を特徴としており、近代都市計画における先駆的な成功例として世界的に知られています。

芸術と建築の分野では、19世紀末から20世紀初頭にかけて花開いた「モダニズモ」が街の景観を決定づけています。アントニオ・ガウディによるサグラダ・ファミリアやカサ・ミラといった作品群は、その多くがユネスコの世界遺産に登録されており、世界中から人々を惹きつけています。また、パブロ・ピカソやジョアン・ミロといった巨匠たちが青年期を過ごした地でもあり、現代芸術の重要拠点としての側面も持ち合わせています。

学術および研究の面では、バルセロナは南欧における主要なサイエンスハブとしての地位を確立しています。カタルーニャ工科大学(UPC)をはじめとする国際的な評価の高い大学が集積しており、特にバイオテクノロジー、AI、そして「バルセロナ・スーパーコンピューティング・センター(BSC)」に代表される計算科学の分野で世界をリードするプロジェクトが数多く進行しています。

スポーツの面において,バルセロナは世界的に人気のあるサッカーチーム「FCバルセロナ」のホームタウンです。FCバルセロナは、単なるプロスポーツチームを超え、カタルーニャの誇りや権利を象徴する政治的・社会的な存在としての歴史を歩んできました。クラブのスローガンである「Més que un club(クラブ以上の存在)」という言葉は、独裁政権下においてカタルーニャ語やその文化が抑圧されていた時代、スタジアム (カンプ・ノウ) が唯一、人々のアイデンティティを表現できる場であったという史実に由来しています。今日においても、バルセロナの街並みにはチームカラーである「ブラウグラナ(青とエンジ)」が溢れ、試合の日には多くの市民が老若男女を問わず、バルや家庭で戦況を見守る姿が見られます。サッカーは単なる娯楽ではなく、世代や国籍を超えた市民の共通言語として機能しており、街の経済や観光、そして社会形成の基盤を支える重要な要素となっています。

日々の生活においては地中海性気候の恩恵を受けた豊かな食文化が中心にあります。新鮮な海産物や野菜を用いた地中海料理に加え、小皿料理を共有する「タパス」の文化が一般的です。生活リズムは他の欧州諸国に比べて遅く、昼食は14時頃、夕食は21時以降に摂るという特有の習慣がありますが、こうしたゆったりとした時間感覚もバルセロナの都市文化を象徴する要素の一つとなっています。

図1:サグラダ・ファミリア

図2:カサ・ミラ

図3:カンプ・ノウ

UPC

私が滞在したカタルーニャ工科大学(Universitat Politècnica de Catalunya:UPC)は、スペインを代表する理工系国立大学の一つです。工学、建築、数学などの分野で国内有数の研究規模を誇り、欧州内の主要な技術系大学ネットワークにも加盟していることから、バルセロナにおける重要な学術拠点として知られています。

学内には、世界有数の性能を持つスーパーコンピュータを擁する「バルセロナ・スーパーコンピューティング・センター(BSC)」などの高度な研究施設が併設されており、物理学や情報科学の枠を超えた領域横断的なプロジェクトが数多く進行しています。

図4:UPC

図5:校内の様子

研究内容

私が取り組んだ研究のテーマは、「ニューラルネットワークを用いた自励振動子のパラメタリゼーションの学習」です。

1. 研究の背景と課題
自励振動子の解析や制御を簡略化するためには、複雑な非線形系を位相・振幅を用いた線形系に引き戻す写像 \(K\) を求めることが重要です。しかし、この写像 \(K\) を導出するには系の次元に応じた膨大な変数を伴う偏微分方程式を解く必要があり、高次元なシステムにおいては計算コストの面から現実的ではありませんでした。そこで我々は、複雑な計算をデータ駆動型の手法、すなわちニューラルネットワーク(NN)によって代替・推定するアプローチを採用しました。

2. 提案手法:逆時間積分によるデータ生成
本研究の独自性は、NNの学習データを得るために「逆時間積分」という手法を導入した点にあります。通常、リミットサイクルを持つ系を順方向に積分すると軌道はサイクル上へ収束してしまいますが、時間を逆方向に積分すると、軌道はリミットサイクルから発散していくという性質を持ちます。

この性質を利用し、リミットサイクル近傍から逆時間積分を行うことで、従来の手法では獲得が困難だったリミットサイクルから遠方の広域データセットを構築することが可能となりました。具体的には、この積分過程で得られた各時刻のデータに対して、位相座標 \(θ\) と振幅座標 \(σ\) を計算し、それらを物理空間の座標 \(x=(x, y)\) と対応付けた教師データを作成しました。この教師データによって写像 \(K\) を学習するNNを構築することが本研究の目的です。しかし、研究上の困難から学習データセットを獲得する段階までしか至りませんでした。

3. 実験と成果
滞在中は、この手法をVan der Pol振動子へと適用し、その有効性を検証しました。

実験の結果、リミットサイクルから離れた領域においても精度の高いデータを獲得することに成功しました。生成されたデータ点の数値的な整合性を示す誤差を評価したところ、その多くが 10-6 オーダーという極めて微小な値に収まり、提案手法が理論的にも高い整合性を持っていることが示されました。 (図を参照)

図6:位相座標の分布

図7:振幅座標の分布

図8:誤差のヒストグラム

今後は、得られたデータセットを用いて写像 \(K\) を学習するNNの構築、さらに高次元なモデルや複雑なダイナミクスを持つ系へとこの手法を拡張し、実社会における非線形現象の解明に貢献したいと考えています。

終わりに

バルセロナでの3カ月は、単なるスキルの向上以上のものを私に与えてくれました。

研究室での手続きや現地での家探しといったプロセスは、この機会があったからこそ経験できたものです。言語についても、英語は得意ではなく、スペイン語もほんの少し(挨拶に毛が生えた程度)しか話せませんでしたが、日常的に英語を使うことで、教授と研究の議論ができる程には成長することができました。異国の地で研究・生活できたという経験は、今後の自分の人生の糧になると確信しております。

最後に、本インターンシップを快諾し、研究から日常生活まで幅広くサポートしてくださったAntoni Guillamon Grabolosa教授をはじめとするUPCの皆様に深く感謝申し上げます。また、インターンシップ先の紹介から研究サポートなどをしてくださった白坂将先生、資金面で援助してくださった鈴木秀幸先生、大阪大学大学院情報科学研究科の皆様に深く感謝申し上げます。

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