在学生の方へ講義・履修高度教育活動教育の国際化2025年度リスト

2025年度(令和7年度)の海外インターンシップ

波田 凌太朗[修士1年]
情報科学研究科 情報ネットワーク学専攻 猿渡研究室

滞在先:カリフォルニア大学サンディエゴ校 (University of California, San Diego / UCSD), San Diego, California, USA

渡航期間:2025年8月18日~9月25日、2026年3月6日~3月28日

はじめに

私は2025年8月18日から9月25日、および2026年3月6日から3月28日の計60日間、米国カリフォルニア州サンディエゴにあるカリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California San Diego, UCSD)のWireless Communications Sensing and Networking Group(WCSNG)[1] に滞在し、Prof. Dinesh Bharadiaの指導の下で共同研究を行いました。本滞在の目的は、私が取り組んでいるUltra-Wideband(UWB)を用いた高精度測位を発展させることと、国際共同研究の進め方を実践的に学ぶことでした。現地では、アルゴリズム設計、実機実験、評価、論文執筆を一体として進め、UWB を用いた XR 向け 3 次元測位と EV ワイヤレス充電向け位置合わせシステムの二つの研究成果を得ました。

サンディエゴ

サンディエゴは、カリフォルニア州南部の太平洋沿岸に位置する都市です。ダウンタウンから米国・メキシコ国境までは約30 kmと近く、米国の都市でありながら、メキシコとの人的・文化的な結び付きが強いという特徴があります。また、Qualcommをはじめとする通信・情報技術関連の企業や研究機関が集積しており、研究開発の拠点としての側面も持っています [2, 3]

図1:滞在中に訪れたサンディエゴの風景

太平洋に沈む夕日

Petco Park周辺

Balboa Park

サンディエゴの気候は太平洋の影響を受けた温暖な地中海性気候で、年間を通して気温の変化が比較的小さいことが特徴です。夏は乾燥して雨が少なく、降水の多くは冬季に集中します。日中は日差しが強い一方で、海からの風によって涼しくなることが多く、長期間生活する上で非常に過ごしやすい気候だと感じました。また、天候が安定しているため、通学や買い物などの日常生活だけでなく、休日の屋外活動の予定も立てやすい環境でした [4]。図1に、滞在中に訪れたサンディエゴの風景を示します。太平洋沿岸の景観に加え、スポーツ施設や歴史的な建築が身近にあり、研究生活の合間にも街の多面的な魅力に触れることができました。

歴史的には、サンディエゴ周辺はもともと先住民族Kumeyaayの人々が暮らしてきた土地です。その後、18世紀後半からスペインによる植民地化が進み、メキシコ統治の時代を経て、米墨戦争後の1848年に米国の一部となりました。このように、先住民族、スペイン、メキシコ、米国という複数の歴史的背景が重なって形成された都市です。現在の街並みや地名、食文化に加え、街中で日常的にスペイン語を見かけたり耳にしたりする環境にも、こうした歴史的背景が表れていると感じました [5]

私が特に印象に残ったのは、この街の多文化性でした。米国やメキシコに限らず、さまざまな国や地域にルーツを持つ人々が同じ場所で生活しており、街中では多様な言語や文化に接する機会がありました。それぞれ異なる価値観や生活習慣を持ちながらも、同じ地域社会を構成し、互いに助け合いながら生活していることが、サンディエゴの開放的な雰囲気や、研究における活力にもつながっていると感じました。

University of California, San Diego

カリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California, San Diego / UCSD)は、1960年に設立されたカリフォルニア大学システムを構成する公立研究大学の一つです。その歴史的な起源はさらに古く、19世紀末にLa Jolla周辺に設けられた海洋研究施設にさかのぼります。この施設は1912年にカリフォルニア大学の一部となり、後にScripps Institution of Oceanographyへと発展しました。1950年代末にサンディエゴ地域へ総合大学を設置する計画が進められた際には、このScripps Institution of Oceanographyが新しい大学の中心となりました。そのためUCSDは、現在では幅広い学術分野を扱う総合大学でありながら、海洋学や地球科学を重要な起源の一つとして持っています [6]

現在のUCSDには、工学、医学、生命科学、物理科学、社会科学、人文・芸術、経営、海洋学などを扱う11の学術・専門・大学院スクールと、8つの学部生向けResidential Collegeがあります。Residential Collegeは日本の学部や学科とは異なり、学生の専攻とは独立した生活・教養教育上の所属組織です。それぞれのCollegeが異なる教育理念、一般教育科目、伝統、学生支援体制を持っており、大規模な研究大学の中に比較的小さな学習共同体を設ける仕組みとなっています。この制度は、Oxford大学やCambridge大学のCollege制度を参考に構想されたものです [7]

図2:UCSDキャンパスの風景

Geisel Library

屋外彫刻

研究・教育施設

UCSDのメインキャンパスは、サンディエゴ市北部のLa Jollaに位置しています。太平洋に近い約1,200エーカーの広大な敷地に、講義棟、研究施設、図書館、学生寮、医療施設、スポーツ施設などが配置されています。キャンパス内にはScripps Institution of OceanographyやUC San Diego Healthも置かれており、基礎科学、工学、医学、海洋学などの研究機関が一つの大学内に集まっています。実際に生活すると、大学の敷地内だけでも多くの研究施設や生活設備が整っており、キャンパス全体が一つの街のような規模を持っていると感じました。

研究面では、UCSDは年間17億ドル規模(2025年度)の研究活動を展開し、学内に100を超える研究センターを有しています。研究資金の獲得支援だけでなく、企業との共同研究、研究成果の事業化、国内外の研究者の受入れなどを支援する組織も整備されています。特に、工学、医学、海洋学、データサイエンスなどの異なる分野を横断した共同研究が活発であり、研究成果を論文として発表するだけでなく、実際に利用可能な技術やシステムへ発展させることが重視されています。サンディエゴ周辺に通信、半導体、医療、バイオテクノロジーなどの企業・研究機関が集積していることも、大学と産業界を結び付ける研究環境の形成につながっています。図2に、UCSDキャンパス内の様子を示します。象徴的なGeisel Libraryをはじめとする研究・教育施設と屋外彫刻が広い敷地内に配置されており、学術と芸術が共存する開放的な環境でした。

研究内容

本インターンシップでは、Ultra-Wideband(UWB)の時間情報と位相情報を組み合わせた高精度測位を共通の研究軸として、二つの共同研究を進めました。一つ目は、単一の受信拠点から室内タグをリアルタイムに三次元測位するシステムに関する研究です。二つ目は、電気自動車(EV)のワイヤレス充電において、地面側の送電パッドと車両側の受電コイルの相対位置および向きを推定する手法に関する研究です。 両研究に共通する課題は、位相情報が小さな位置変化を捉えられる一方、波長ごとに同じ値を繰り返すため、複数の位置候補が生じることです。また、実機ではアンテナの指向性や設置状態に起因する系統的な誤差も無視できません。そこで、時間情報によって大まかな位置を絞り込み、位相情報によって高精度化するとともに、実機固有のバイアスを事前に校正する方針を採用しました。

1. XRTrack:単一UWB受信アレイによるリアルタイム三次元測位

図3:XRTrackの想定利用場面と単一UWB受信アレイ:
(左)タグの三次元追跡、(中央)XRでの利用イメージ、(右)1 m × 1 mの試作受信アレイ

Extended Reality(XR)や室内ドローンでは、数cm程度の位置精度に加えて、動きに追従できる高速な更新が必要です。複数のカメラや無線アンカーを部屋全体に設置すれば高精度化できますが、配線や同期、設置後の校正に大きな負担がかかります。そこで我々の研究では、部屋の一か所に設置した1 m × 1 mのUWB受信アレイだけで、室内全体を三次元測位することを目指しました。図3に、XRTrackの想定利用場面と試作受信アレイを示します。

試作した受信アレイには11個のUWB受信素子を二層構造で配置し、高さ方向を含む三次元位置を観測できるようにしました。タグから送信された信号について、受信素子間の到来時間差(TDoA)と到来位相差(PDoA)を計測します。PDoAは高い分解能を持つ一方で周期的な曖昧性を持つため、通常の三次元グリッド探索では計算量が膨大になります。提案手法では、PDoAとTDoAが空間内に形成する双曲面の交点を解析的に列挙し、物理的に成立する位置候補だけを評価しました。さらに、少数のアンテナ対による粗探索と、全アンテナ対による精密探索を組み合わせることで、精度と計算速度を両立しました。図4に、PDoAとTDoAによる候補領域の限定から粗探索・精密探索までの処理フローを示します。

図4:XRTrackの処理フロー:PDoA/TDoAによる候補領域の限定と粗探索・精密探索

実機では、アンテナの方向に応じて位相と到来時間に再現性のある誤差が生じることが分かりました。そこで、回転台を用いた事前測定から角度依存のバイアスをモデル化し、測位時に補正しました。この補正により、評価環境によっては測位精度が最大2.3倍改善しました。

5 m × 5 m × 3 mの室内空間で評価した結果、三次元位置誤差は中央値1.51 cm、90パーセンタイル5.76 cmとなりました。また、一回の推定時間は単一CPUコアで中央値11.8 msであり、計算処理としては毎秒約85回の更新が可能でした。一方、人がタグと受信アレイの間に長時間立ち、最初の到来波を遮る条件では大きな誤差が継続しました。そのため、直接波を分離できない強い遮蔽や複雑なマルチパス環境への対応は、今後の課題です。

この研究を通じて、高精度測位ではアルゴリズムだけでなく、アンテナ配置、クロック同期、実機バイアス、アプリケーションが要求する更新速度を一体として設計することが重要であると学びました。


2. EVワイヤレス充電に向けたパッド・コイル位置合わせ
EVのワイヤレス充電では、地面側の送電パッドと車両側の受電コイルの位置や向きがずれると、磁気結合が弱まり、充電効率の低下や充電時間の増加につながります。特に自動運転車が無人で充電する場合には、車両を充電区画まで移動させるだけでなく、最終停止時に受電コイルの平面位置と車両のヨー角を高精度に合わせる必要があります。

本研究では、送電パッド側に四つのUWBアンカー素子を配置し、受電コイル周辺には四つの同期UWBモジュールを固定しました。推定対象は、送電パッドを基準とした受電コイル領域の平面位置(x, y)とヨー角ψです。車両側の四つのモジュールを独立した点として扱うのではなく、既知の位置関係を維持する一つの剛体としてモデル化することで、位置と向きを同時に推定しました。

図5:縮尺車両模型を用いたパッド・コイル位置合わせデモ
(左から)実験場面、追跡対象、位置合わせGUI、および進入中の代表的な平面姿勢推定結果

推定は二段階で行います。まず、位相のような周期的曖昧性を持たない電波飛行時間(ToF)を用いて、大まかな位置を求めます。次に、その周辺に複数の姿勢候補を配置し、ToFとPDoAを組み合わせた目的関数を粒子ベースで探索します。また、ToFとPDoAの両方について、距離や方向に依存するバイアスを事前に計測し、各候補姿勢の評価時に補正しました。

図5に、縮尺車両模型を用いた駐車・位置合わせデモと、進入中に得られた代表的な平面姿勢推定結果を示します。図中の赤い✕印は推定された車両位置、青い矢印は推定されたヨー角の向きを表します。

縮尺車両模型を用いた実機評価では、最終停止位置において平面位置誤差が中央値2.32 mm、90パーセンタイル誤差が4.23 mmとなり、ヨー角誤差は中央値0.25度、90パーセンタイル誤差は0.72度となりました。一方、角度依存の位相バイアス補正を無効にすると、平面位置誤差の中央値は11.93 mmまで増加しました。この結果から、実機でmm級の精度を得るためには、PDoAを利用するだけでなく、設置状態に応じた校正が不可欠であることが分かりました。

現状の評価は研究室内の縮尺模型を用いたものであり、実車や屋外環境、送電中の状態は対象としていません。実車では、車体下部の金属構造による反射、温度変化、車高や姿勢の変動などが生じるため、これらを含む環境での検証が今後の課題です。報告会時点では、論文誌の初回査読の指摘を踏まえて追加評価と記述の改善を進めており、研究の主張に必要な証拠を整理し直す過程も重要な経験となりました。

現地での研究生活

WCSNGでは、研究アイデアを論文上の新規性だけで評価するのではなく、実機で動作するシステムとして成立させ、実際の利用場面でどの程度の性能が得られるかを重視していました。週次ミーティングでは、結果が良い場合も悪い場合も、なぜその結果になったのかを具体的に説明することが求められました。Prof. Dinesh Bharadiaとの毎回のミーティングを通じて、検証すべき仮説や必要な実験が明確になりました。そこで得た指摘をすぐに実装や追加実験へ反映し、得られた結果を次回の議論に持ち寄るというサイクルで研究を進めました。

特に印象的だったのは、アルゴリズム、ハードウェア、実験が別々の作業として切り離されていなかったことです。論文の主張を支えるために新たな評価が必要になれば、シミュレーションや実験条件まで遡って設計を見直し、得られた結果の提示方法や図表の構成まで改善しました。私はこの環境で、研究成果を実際に動作するシステムと説得力のある主張の双方へ仕上げる姿勢を学びました。

日本の研究環境との違い

サンディエゴとWCSNGでの生活を通じて、米国の研究環境の強さの一つは、世界各地から多様な背景を持つ研究者が集まり、異なる視点を日常的に交換している点にあると感じました。同じ問題でも、教育背景、文化的背景が異なると、重要だと考える評価軸や解決方法が変わります。自分の前提を当然とせず、相手に伝わる言葉で説明し、意見の違いを新しい設計へつなげることの大切さを学びました。

また、分野を代表する国際会議を明確な目標として、研究を進める速度、議論の開放性、成果発信の完成度を高めていく文化にも刺激を受けました。日本の研究室でも、多様な研究者を受け入れ、異なる視点を研究の力へ変える環境をさらに育てることが重要だと感じます。同時に、海外の研究環境を一方的に模倣するのではなく、日本側の丁寧な実験や継続的な技術蓄積と組み合わせることで、より強い共同研究につながると考えています。

終わりに

本インターンシップを通じて、UWB測位に関する技術的な知識だけでなく、研究課題を設定し、検証可能な形へ落とし込み、成果としてまとめるまでの進め方を実践的に学ぶことができました。特に、アプリケーションが求める精度や処理速度から研究上の課題を具体化し、理論的な検討、システムの実装、実機実験を繰り返しながら仮説を検証することの重要性を実感しました。また、良好な結果だけでなく、誤差が生じる条件や手法が成立する範囲を明らかにし、得られた証拠に応じて設計や論文の主張を修正することも、研究における重要な過程であると学びました。二つの研究では、アルゴリズムだけを個別に評価するのではなく、アンテナ配置、ハードウェア同期、校正、計算量、実験条件を含むシステム全体として検証しました。この経験から、現象を丁寧に観察し、原因について仮説を立て、実験によって確かめるという研究の基本姿勢を身につけることができました。

さらに、異なる文化的背景を持つ研究者との議論を通じて、自分が暗黙に置いている前提を言葉にし、相手と共有することの大切さを学びました。週次ミーティングでは、数式や実験結果を提示するだけでなく、なぜその検証が必要なのか、結果からどこまで結論付けられるのかを説明することが求められました。分からない点を曖昧なままにせず確認すること、実験を再現できるよう条件や手順を整理すること、指摘を受けて研究方針を柔軟に修正することは、今後も大切にしたい研究姿勢です。

本滞在を受け入れ、研究課題の設定からシステム設計、実験、論文執筆に至るまで丁寧にご指導くださったProf. Dinesh Bharadiaに、心より感謝申し上げます。また、日々の議論や実験を通じて多くの助言と協力をいただいたWCSNGの皆様にも、深く御礼申し上げます。日本側で継続的にご指導くださった猿渡先生をはじめとする猿渡研究室の先生方およびメンバー、共同で研究を進めてくださった株式会社東海理化電機製作所の皆様、ならびに本インターンシップを支援してくださった大阪大学大学院情報科学研究科の関係者の皆様にも、厚く御礼申し上げます。本滞在で得た研究の進め方と国際共同研究の経験を、博士後期課程における研究の深化と、今後の成果発信につなげていきたいと思います。

参考資料

[1] UC San Diego, “Wireless Communications Sensing and Networking,” https://wcsng.ucsd.edu/(2026年7月28日閲覧).
[2] San Diego Tourism Authority, “Explore San Diego’s Cross-Border Region of Baja California,” https://www.sandiego.org/beaches-neighborhoods/baja-california(2026年7月28日閲覧).
[3] City of San Diego, “Economic Development Strategy 2014-2016,” 2014, https://docs.sandiego.gov/councilcomm_agendas_attach/2014/edir_140409_1a.pdf(2026年7月28日閲覧).
[4] E. M. Isla, S. Vanderburg, C. Medjber, and D. Paschall, “Climate of San Diego, California,” NOAA Technical Memorandum NWS WR-270, National Weather Service, 2004, https://www.weather.gov/media/wrh/online_publications/TMs/TM-270.pdf(2026年7月28日閲覧).
[5] City of San Diego, “Old Town San Diego Community Plan: Historical Background,” 2018, https://www.sandiego.gov/sites/default/files/1._introduction_-_old_town_san_diego_cp_aug_2018_draft.pdf(2026年7月28日閲覧).
[6] UC San Diego, “About UC San Diego,” UC San Diego General Catalog, https://catalog.ucsd.edu/about/about-uc-san-diego/index.html(2026年7月28日閲覧).
[7] UC San Diego, “Campus Profile,” https://univcomms.ucsd.edu/about/campus-profile/(2026年7月28日閲覧).

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