三浦 貴隆[修士1年]
情報科学研究科 情報数理学専攻 非線形数理講座
●滞在先:インペリアルカレッジロンドン (Imperial College London), London, United Kingdom
●渡航期間:2025年11月18日~2026年3月20日
はじめに
私は2025年11月18日から2026年3月20日までの約4カ月間、イギリス・ロンドンにあるImperial College London (ICL)のDepartment of Aeronauticsに所属するImperial Plasma Propulsion Laboratory(IPPL)にて、Aaron Knoll先生の指導のもと研究インターンシップを行いました。
滞在中は、プラズマの数値シミュレーションと機械学習を組み合わせた研究に取り組みました。本稿では、研究内容に加えて、Imperial College Londonでの研究生活やロンドンでの暮らしを通して感じたことについて紹介します。
ロンドンでの生活
ロンドンは、歴史的な建築物と近代的な都市機能が共存する都市です。Imperial College LondonのあるSouth Kensington周辺には、博物館や公園、歴史的な建物が多く、大学の周辺を歩くだけでも日本とは異なる都市の雰囲気を感じることができました。
実際に生活して特に印象に残ったのは、ロンドンの文化的な多様性です。街中ではさまざまな言語や各国特有の訛りのある英語が聞こえ、大学や滞在していたアパートでも、多様な国や地域を背景に持つ人々と接する機会がありました。ロンドンにはさまざまな国からの人が集まっていることは知っていたのでまさに「世界的な都会で生活している」と強く感じました。
食事についても、インド料理、中東料理、中華料理、韓国料理、東南アジア料理など、各国の料理を気軽に食べることができました。イギリスの伝統料理には、正直なところ私の好みに合わないものもありましたが、移民によってもたらされた多様な食文化のおかげで、食生活にはほとんど困りませんでした。この点も、多文化都市ロンドンの特徴を実感した部分です。
一方で、物価、特に家賃や外食費は非常に高く、日常的に自炊することが多くなりました。慣れない環境で生活を立ち上げ、研究と家事を両立させる経験は、研究とは別の意味でも自立するための良い訓練になりました。
図1:ロンドンの街中の様子



Imperial College LondonとIPPL
Imperial College Londonは、ロンドン中心部にキャンパスを持つ理工系を中心とした大学です。私が滞在したIPPLでは、プラズマ推進機を対象として、実験、数値シミュレーション、理論解析など、さまざまな観点から研究が行われています。
研究室には、イギリスだけでなく、多様な地域から研究者や学生が集まっていました。日常的な会話や研究上の議論は英語で行われ、それぞれが異なる専門性や文化的背景を持ちながら研究を進めていました。
日本の研究室と比較して特に印象的だったのは、自分の研究の目的や現在の問題点を、明確に説明することを強く求められる点です。ミーティングでは、単に結果を示すだけでなく、「なぜこの計算を行ったのか」「この結果から何が分かるのか」「次に何を検証するべきか」などの説明を明確に求められていると感じました。
英語で専門的な内容を説明することには当初苦労しましたが、図や数式、シミュレーション結果を用いながら議論を重ねることで、徐々に自分の考えを伝えられるようになりました。
図2:ICLの風景


研究内容
研究の背景
私が取り組んだ研究テーマは、プラズマのParticle-in-Cell(PIC)シミュレーションに対する機械学習を用いた時空間予測です。
PIC法は、プラズマを構成する多数の荷電粒子の運動と電磁場の変化を計算することで、プラズマ中で生じる複雑な現象を解析する手法です。粒子の運動を詳細に表現できる一方で、非常に短い時間間隔と細かい空間格子を用いて計算する必要があり、長時間または大規模なシミュレーションには大きな計算コストがかかります。
そこで本研究では、PICシミュレーションによって得られたデータから将来の状態を機械学習モデルに予測させることで、シミュレーションを代替または補助できる可能性を検討しました。
使用した機械学習モデル
時空間予測モデルとして、SimVPv2と呼ばれる機械学習モデルを使用しました。SimVPv2は、複数時刻の画像を入力し、その後の画像を予測するモデルです。
今回の研究では、PICシミュレーションから得られた電子密度、イオン密度、静電ポテンシャルを画像のようなデータとして扱いました。過去10時刻分のデータをモデルに入力し、その後の10時刻分を予測するように学習させました。
具体的な処理としては、PICシミュレーションの出力形式を確認し、複数の計算領域に分割されて保存されたデータを一つの二次元データへ統合する作業を行い、データの正規化、学習用・検証用・テスト用データセットの作成、モデルの学習、予測結果の可視化と評価を進めました。
予測結果
短い時間範囲を一度だけ予測する評価では、特に静電ポテンシャル(φ)の空間構造を比較的良好に再現できました。一方、電子密度とイオン密度については、時間変化が小さい領域や粒子的な揺らぎを含む領域の予測が難しく、変化を過度に滑らかに予測する傾向が見られました。
また、モデル自身の出力を次の入力として繰り返し利用する長時間予測も行いました。この方法では、初期の予測は比較的正確であっても、予測を繰り返すにつれて小さな誤差が蓄積し、次第に真のシミュレーション結果からずれていくことが分かりました。
この結果から、短時間の予測精度だけでなく、長時間予測における安定性を評価することが重要であると分かりました。また、モデルに与える時間間隔や入力データの設計によって予測性能が大きく変化することも確認できました。

図3:モデルによるφの予測と真値との比較例
得られた知見
本研究では、PICシミュレーションから得られた電子密度、イオン密度、静電ポテンシャルの時空間データに対して、SimVPv2を用いた将来状態の予測を行いました。
短時間の予測では、静電ポテンシャルの特徴的な空間構造や時間変化を比較的良好に再現できました。一方、電子密度とイオン密度については、粒子的な揺らぎを含む細かな構造の予測が難しく、予測結果が実際のデータよりも滑らかになる傾向が見られました。物理量によって時間変化の大きさや空間構造が異なるため、同一のモデルを用いた場合でも予測の難易度が異なることが分かりました。
また、モデルの予測結果を次の入力として繰り返し使用する長時間予測では、予測回数の増加に伴って誤差が蓄積しました。短時間の予測精度が高い場合でも、長時間にわたって安定した予測が可能であるとは限らないため、機械学習モデルを数値シミュレーションの代替として利用するには、自己回帰的な予測における安定性を評価する必要があります。
さらに、モデルに入力するデータの時間間隔を変更したところ、予測性能にも変化が見られました。単に連続するデータを入力するのではなく、対象とする物理現象の時間スケールに合わせて入力間隔を設定することが重要であると考えられます。
これらの結果から、PICシミュレーションへの機械学習の適用では、モデル構造だけでなく、予測対象とする物理量、データの時間間隔、長時間予測時の誤差蓄積を含めて評価する必要があるという知見が得られました。
帰国後の研究と今後の展望
帰国後も、Imperial College Londonで開始した研究を継続しています。現在は、入力データの時間間隔が予測性能に与える影響をより詳細に調べるとともに、磁場などの物理条件が異なるPICシミュレーションデータを用いて、モデルの汎化性能を評価しています。
今後は、学習時に含まれていない磁場や電場の条件に対して、モデルがどの程度正確に将来状態を予測できるかを検証する予定です。また、長時間予測において誤差が増加する原因を分析し、物理量ごとの特徴を考慮した損失関数や学習方法についても検討したいと考えています。
さらに、プラズマ中に現れる不安定性や状態の変化を機械学習によって検出し、現象が大きく変化する前にその兆候を予測する研究への発展も考えています。シミュレーション結果を単に高速に予測するだけでなく、機械学習を用いてプラズマ現象の理解や解析を支援することを今後の目標としています。
終わりに
約4カ月間の滞在を通して、研究を進めるための技術だけでなく、自分の考えを明確に伝え、異なる専門性を持つ研究者と議論することの重要性を学びました。慣れない環境で研究や生活を行った経験は、自分の課題や今後の進路を考える貴重な機会となりました。
今回の経験によって、海外で研究する生活を具体的にイメージできるようになり、Imperial College Londonを含む海外大学院の博士課程への進学も、今後の選択肢として考えるようになりました。
最後に、本インターンシップを受け入れ、研究についてご指導くださったAaron Knoll先生をはじめ、IPPLの皆様に心より感謝申し上げます。また、渡航前から帰国後までご支援くださった大阪大学の指導教員の先生方および情報科学研究科の関係者の皆様に、深く御礼申し上げます。