情報基礎数学専攻
離散幾何学講座
准教授
東谷 章弘
Higashitani Akihiro
研究内容について教えてください
純粋数学を追求する情報基礎数学専攻で講座を持つ私は、主に格子多面体について研究しています。特に格子多面体に含まれる格子点に関する数え上げ函数であるエルハート(Ehrhart)多項式に興味を持ち、可換環論や代数幾何などの文脈で現れる格子多面体の研究にも取り組んでいます。
格子多面体とは、多面体のなかでも特別なものです。2次元には三角形や四角形、3次元には立方体や正八面体とさまざまな多面体がありますが、それを数学的に「d次元の多面体」とすることができます。さらに格子多面体とは、多面体の頂点が格子点であるという条件を満たしたものになります。
この格子多面体は、数学のさまざまな分野に現れますが、なかでも重要なのが格子多面体のエルハート多項式の研究です。格子多面体の中にはいくつかの格子点が含まれますが、格子多面体を3倍、n倍と膨らませていくと、その中にある格子点も増えていきます。その増え方を式で表したのがエルハート多項式になります。
このエルハート多項式を探求していくと、多面体に限らず全く関係のないように見える分野と、不思議とつながっていきます。例を挙げると「魔方陣」がそうです。魔方陣とは、 n×nの正方形のマス目に、1からn²までの異なる自然数を配置し、縦・横・斜めの各列の合計が全て等しくなる数理パズルですが、これを普通に解くのではなく、エルハート多項式を用いて多面体の格子点と対応させて解くといった応用があります。
さらに数学の他の分野への応用として挙げられるのが、代数幾何や可換環論です。代数幾何は大学の数学では最もメジャーかつ非常に難しい理論なのですが、その一部を格子多面体のエルハート多項式の理論を使って発展させることができます。また可換環論も代数幾何と非常につながりの深い分野なのですが、同様にその一部を発展させることができます。
そもそもエルハート多項式とは、1962年にフランス人の数学者ウジェーヌ・エルハートが発表した多項式です。エルハート自身は素朴に、格子多面体の中の格子点の数の話をまとめたものとしてこの数式を考え出したと思います。
しかしそこから議論が発展していき、さまざまな分野とつながることで新しい問題が出てくるようになり、21世紀の今でも未解決問題がたくさんある、研究しつくされているとは到底いえない分野となっています。そこに私は魅力を感じ、エルハート多項式の研究…ジャンルとして「エルハート理論」と呼ばれていますが…これを極めたいと考えています。
なおエルハート理論は数学全体の中で見ると非常にニッチな分野です。日本でこれを専門に研究しているのは私ぐらいであり、日本のトップを走っていると自負しています。
エルハート理論との出会いについて教えてください
幼少期から数学が好きで得意で、2005年に大阪大学理学部数学科に入学しました。また入学当初より博士後期課程進学を視野に入れていましたが、高尚な志があったわけではなく、好きなことをやり続けたいという思いからでした。
阪大数学科では4年生からゼミに配属されます。そこで私が選んだのが、計算可換代数と組合せ論というニッチな分野を専門とされていた日比孝之先生(2022年3月退官。現大阪大学名誉教授)のゼミでした。
なぜ先生のゼミを選んだかというと、数学科での研究領域は主に「代数」「幾何」「解析」の3つに分かれます。このなかで選ぶとすれば、私は「代数」がよいと考えました。一方で代数学での研究では「代数幾何」と「整数論」が最もメジャーであり、代数学に関連するほとんどの先生はそのどちらかを専門とされています。学位取得を視野に入れていた私は、「ニッチな分野の方がトップになりやすいのでは」と考え、日比先生に師事することにしました。
エルハート理論との出会いは、学部4年時のゼミで、日比先生の著作『可換代数と組合せ論』(シュプリンガー東京、1995年)を輪読し、格子多面体論やエルハート理論の基礎を学んだことです。
先ほど、エルハート多項式はさまざまな数学と関連してくるという話をしましたが、そのひとつにピックの公式(ピックの定理)があります。ピックの公式は、全ての頂点が等間隔の格子点(整数座標)上にある、穴のない多角形の面積を求めるものです。つまり2次元の多角形の話なのですが、その3次元、4次元、d次元を考えるときにエルハート理論が関係してきます。要はエルハート理論でピックの公式を証明でき、d次元版ピックの公式を得ることができるのです。その意味で、ピックの公式というのは、エルハート理論の原点といえるでしょう。
そのことに私はエルハート理論を一通り勉強した後に気づき、「ピックの公式はすごいな!」と感動を覚えました。エルハート理論にのめり込んでいったのはそれからです。その後、格子多面体のエルハート多項式の特徴付け問題として、正規化体積が3以下の場合の特徴付けに取り組み、2009年3月に初めての共著論文※を完成させました。これが私の研究の原点です。
※ Ehrhart polynomials of convex polytopes with small volumes.(EUROPEAN JOURNAL OF COMBINATORICS)
格子多面体やエルハート理論を学部生が知る機会はほぼありません。その意味では私は非常に運が良かったのだと思います。取り組み出すとエルハート理論は非常に面白く、がむしゃらに取り組み続けるうちに、博士課程の頃には、エルハート多項式については私の方が日比先生より詳しいと言えるぐらいの自信を持てるようになりました。
そうなると、国内でエルハート理論について得られることはほとんどありません。自然と私の目は、海外に向けられるようになりました。