受験生の方へ研究者インタビューリスト

研究者インタビュー

情報システム工学専攻
知的集積システム講座

准教授

塩見 準

Shiomi Jun

研究内容について教えてください

私は低電力な、社会に溶け込むような集積回路の設計を研究しています。また、最近は、光コンピューティングという、光を使って計算する技術があるのですが、それを使った次世代計算技術の研究を始めています。

社会に溶け込む集積回路というのは、具体的には昨今のエッジデバイスやIoTをイメージしてもらえたらと思います。
人の体や壁や物などに取り付けて、10年くらい電池だけで動くデバイスを動かすためには、低電力のデバイスがかならず必要になります。ですので、そういった低電力で電池を食わない集積回路の設計を研究しています。
例えば、回路を工夫してなるべくエネルギーを下げたり、本来想定されている電圧値より低い、普通なら絶対に動かないような電圧で動かしてもちゃんと動く回路を作ったりできないか、という研究です。

この研究の根底にあるのは、回路の性能にばらつきが発生するということです。具体的に言うと、同じ半導体素子を作っても性能にわずかなばらつきが発生します。さらに、半導体素子を使い続けていくと性能が徐々に劣化していきます。回路のスイッチになるのはトランジスタで、それが何十億個も繋がって計算機というのは作られているのですが、このような"想定外"なばらつきや劣化が個々のトランジスタに蓄積すると、トランジスタでくみ上げた回路が意図通り動かなくなり、最終的には故障します。さらに、トランジスタが1個でも動作不良に陥ると、システム全体がだめになります。電力を絞るために、電圧を下げて動かすと、このばらつきがさらに強調されて余計に回路が動かなくなるんですよね。

人間でたとえると、学校の授業を風邪で欠席してしまう人ってたまにいますよね。人間だと仕方ないことなのですが、集積回路だと、一回の欠席でも許されない。何十億個のトランジスタがあって、全員が揃わないとちゃんと動けない。集団責任なんです。何十億個のトランジスタが全て、何十年も動かないといけないというのは、そもそもかなり奇跡のようなことなのですね。

ですので、性能はばらつく・劣化する、という状態を加味して回路を作る、というのが重要になってきます。例えば、何10億個あるトランジスタがばらついたり劣化したしてもちゃんと動く回路設計の技術を研究しています。それが可能になると、これまで大きな電池で動かなければいけなかったようなスマートフォンのようなデバイスが、すごい微弱な電力源でも動作するようになります。

先生が研究を始めることを決められたきっかけを教えていただけますか?

私が入学したのは、京都大学の工学部電気電子工学科です。当時は具体的に何を研究したいという気持ちはなかったのですが、漠然と量子コンピュータがしたかったです。ただ、当時京都大学には量子コンピュータの研究室がなかったのですね。

当時からテレビゲームやパソコンなどの計算機にふれあう機会がたくさんあり、集積回路の研究室に行こうと決めて、京都大学情報学研究科 小野寺研究室に入りました。そこでの研究が、非常にローパワーで回路を設計する、というもので、通常の回路で用いる電圧の半分や三分の一低い電圧で回路を作る、という試みでした。そこから始まってローパワーで回路を作る研究を続けることになりました。

最近はご縁があって、光を変調して計算するものや、半導体チップ上で光を制御する、という研究にも参加させて頂いています。そこでは新計算コンピュータの研究をやったりしています。

新計算コンピュータというのは、セキュアなコンピュータの研究の一環になります。耐タンパー性という指標があるのですが、集積回路は動作すると電気が流れて電磁波を持つのですが、そこの電磁波を拾うと、中で何をしているかが分かってしまうことがあります。なので電磁波の暗号処理ができてしまうと、秘密鍵が分かってしまうなど、セキュリティ上の問題が指摘されていたりしています。

それであれば、光を変調して計算するコンピュータだと、外に情報が漏れないのでは? というのがこのプロジェクトの本旨です。例えば、従来の集積回路が取り扱う電圧や電流と違って、光は波の性質を示します。波の振幅や位相など、従来の電気ベースの集積回路では表現できない物理量に論理情報を隠すことで、光でセキュアなコンピュータを作れば、情報が外に漏れないのではないか。そういうプロジェクトに携わっています。

ローパワーなデバイスとセキュアなコンピュータ、というのは、最近ようやく関連性が見えてきたくらいの研究テーマです。その好例がIoTです。IoTで人の心拍を測ったり自動車を制御したり、というのは、低電力でなければいけないし、かつ、覗かれないデバイスである必要がある。というので、最近は二つをつなげるような研究が行われてきています。

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